ひとり異色作家短篇集祭り

  先日の『無限がいっぱい』で、異色作家短篇集を読み終えた。そこで、<ひとり異色作家短編集祭り>と題して、短編集ベスト5と短編ベスト10を発表。明日には雲行きで変わるような気分次第の無責任ベスト。まあ固いこといわずに早速参りましょう。
 まずは短編集ベスト
5から。
 ○次点 『棄ててきた女』 新版では若島正編アンソロジーが三冊ある。どれも面白いのだが、旧版とは
40年以上のずれがあるため、短編集では一応次点とした(短編ベストの方には入れてしまった)。三冊のうち一読は最も地味なこれがじわじわきた。「顔」「壁」「テーブル」など渋い英国らしい作品が並ぶ。
       『虹をつかむ男』 個々の作品はユーモアスケッチといった感じのいわゆる名作とは程遠い軽い作品が多いのだが、まとめて読むと独特の視点が何とも楽しい。幅広い作家のものが読めるのがこのシリーズの良いところだ。
 ○
5位 『一角獣・多角獣』 
      永いこと幻の名作とされていたものは、実際読んで期待通りということがほとんどないのだが、これは期待通りであった。現在では他の短編集と内容が重複するため
5位に留めたが、比較的分かりやすい話が多い一方でスタージョンの異様な論理が感じられる作品集なので、スタージョン初心者におすすめ。
 ○
4位 『夜の旅その他の旅』 
      以前に読んだアンソロジーでも共作はあったようなのだが、本書を読むまでボーモントのことは全く知らなかった。歯切れの良い文章、ほどよい情感、見事なオチで、ここ数年のミステリマガジンや
SFマガジンに載っていた短編も良かった。この短編集も粒揃いで、物凄い傑作をものにするというような作家ではないが、出会った喜びを感じさせてくれる作家である。
 ○
3位 『キス・キス』 
      さすがにこのシリーズのトップ・バッターに選ばれただけあって、質が高いし、シリーズの特徴がよくあらわれている。何気ない日常から始まり、ちょっとしたきっかけや欲から事件が展開し、皮肉なオチが待ち受けるといった具合である。一方で、何とも表現のしにくいタイプの作品も混ざっており、これもまたシリーズの特徴の一つでもある。
 
○2位 『破局』 
      異常心理が見事に描かれているところが一番に目を引く作家だが、異世界ファンタジー風の作品やら奇妙なユーモアの漂う作品もありなかなか多彩な短編集である。
 ○1位 『くじ』 
      シャーリイ・ジャクスンの名を知ったのは『乱視読者の帰還』など一連の若島正評論集である。普通の女性が心的な歪みによって作品を生み出した、と評されるその短編は淡々としていて逆に背筋が寒くなるというものだ。この短編集をきっかけに他の異色作家短篇集を読むことになったという自分記念的1位である。

 さて短編ベスト10。
 ○10位 「パリ横断」(『壁抜け男』) 
       闇市用の豚肉を運ぶという渋い作品だが、パリの風景と共に妙に印象に残る。
 ○9位 「決断の時」(『特別料理』) 
       プライドの高い男と奇術師のスリリングなやり取りがラストにつながっていく展開が見事。
 ○8位 「ギャヴィン・オリアリー」(『炎の中の絵』) 
       変な主人公の話はいろいろあれど、ノミとは驚きだ。まさに異色の名にふさわしい
一編。
 ○7位 「スカット・ファーカスと魔性のマライア」(『狼の一族』) 
       上のような理屈をこねつつも新版から入れてしまった。SFファン大喜びの面子で構成されたアメリカ篇『狼の一族』だが、白熱するコマ回しの話というユニークさでこれを挙げたくなった。全体的に疲れた中年が主人公のことが多い異色作家短篇集だが、この作品の主人公は(回想ではあるが)子供。
 ○6位 「ユーディの原理」(『さあ、気ちがいになりなさい』) 
       フレドリック・ブラウンの奇想は時代を超えている。ネタとしてはさんざん模倣されたようなものがほとんどなのにオリジナルの持つ輝きは失われていない。本作もバカバカしいようなドタバタSFだが、短くてインパクトは強烈。
 ○5位 「牧師の楽しみ」(『キス・キス』) 
       これもある種のドタバタなのだが、のんびりした雰囲気と皮肉が同居していて、ダールっていろいろ書けるんだなあと思わせる。
 ○4位 「ベッツーは生きている」(『血は冷たく流れる』) 
       売れない作家の近所に若くして成功している作家が引っ越してきて自慢話を始めるという鮮やかな導入から、次第にサスペンスフルな展開となり、伏線が効いたラストまであっという間。
 ○3位 「美少年」(『破局』) 
       旅行先のヴェニスで美少年の給仕に入れあげる古典学者。ヴェニスという土地と主人公の薀蓄があいまって独特の世界が作り上げられている。(土地と作品の結びつきなどディッシュの「アジアの岸辺」はこの作品の影響下にあるのではないかと疑っている←※その後考えを修正。まずはこの作品自体に先行作マンの「ヴェニスに死す」があるし、都市をテーマにしたものはいろいろあるのでブッキシュなディッシュはそうした伝統を踏まえたものを提示したのだろう。<都市萌え小説>と読んでおられる方もいらっしゃる)
 ○2位 「魔性の恋人」(『くじ』) 
       平凡な列車の風景から唖然とするオチが待っている「魔女」とか痛みと痛み止めでぐじゃぐじゃになっていく「歯」とかとんでもない作品が他にもいろいろあるんだが、孤独な女性の独白が空恐ろしい本作を挙げておく。
 ○1位 「ビアンカの手」(『一角獣・多角獣』) 
       ランが恋したのはとある女性の<手>であった・・・。とにかくこんな話になるとは誰も思わないし、スタージョン特有の情念が異様にあふれていて美しいとも恐ろしいともいえる話である。衝撃力だけでいくとシャーリイ・ジャクスンとスタージョンだけでベスト5が埋まってしまいそうである。