『楽園への道』 バルガス・リョサ

  フローラ・トリスタンと、その孫ポール・ゴーギャン。片や十九世紀半ばに女性や労働者の人権向上に奔走した「スカートをはいた煽動者」、片や文明社会を捨て自らの世界に没入した芸術家。一見対照的とも思える祖母と孫、血縁なのに会ったことすらない二人だが、短い命を燃やし<楽園への道>を辿るという激しさひたむきさは生き写しといってもよい。
 物語は、その二人を交互に描くという形式。それぞれに二人称が多用され、不思議な温かみが醸しだされる。どちらも晩年が描かれ、巧みに過去が組み入れられる手つきは鮮やかだが、驚くような構成ではない。むしろ基本的には直線的な時間軸で語られるのでやや単調ですらあり、特にフローラのパートでは当時の様々な思想団体が登場することもあり、予備知識の少ないものとしては(なかなかの大著であることもあり)必ずしもすらすらと読み進められるようなわけではない。それでも重厚なテーマがストレートに語られるため非常に惹きつけられるし、シンプルで力強い骨太の小説はズシリと読み応えを感じさせてくれる。最晩年の姿も凄まじいが、特に株式仲買人として成功を収めていたはずのゴーギャンが絵画の世界に導かれていく様がスリリングである(1880年の経済恐慌で失職しついに画家に専心することになるのが興味深い)。
 それにしてもなんと<楽園への道>の遠く険しいことか。