『スターシップ』 宇宙SFコレクション? 伊藤典夫・浅倉久志編

 日本編集の海外SFアンソロジーを出そう、ということで1985年に新潮文庫から出された宇宙SFコレクションの2冊目。好評だったらしく、続いて1987年に時間SFコレクションが出ている。それら三冊のうち、唯一持っていなかった本書を偶然通りかかった古本市で目にしたので、早速購入しすぐ読んだ。有名どころが多いので、ややお得感がないが、SF入門的意味合いが大きいのだろう。未読物を中心に感想。

 「帰ってきた男」スティーブン・キング もちろん宇宙からの侵略者。リーダビリティの高さはいうまでもないこと。
 「闇と夜明けのあいだ」アルジス・バドリス ピーター?(分かんないか) 『無頼の月』は読んでみたい。リトアニア出身でナチから逃れてアメリカに渡ったという経歴が印象深い。獰猛な生物が闊歩する厳しい環境の惑星に適応しようとする人類の物語。生物や追い詰められた人々の心理描写がよく描かれている。
 「楽園にて」R・A・ラファティ 一発ネタですかね。
 「宇宙の影」フィリップ・ホセ・ファーマー 有人宇宙船として初めて光速を超える、という実験を行うはずだったスレイプニール号は正気を失った未亡人に乗っ取られ暴走をしてしまい、図らずも超光速の旅に出ることに。導入がこれでまずヤられたし、その後の奇想の爆発ぶりも予想の斜め上をいく。巨大な・・・が登場するあたり、特に驚いた。殊能さまがファーマーのアンソロジーを提案されているのも納得の異様な発想力だ。集中No.1。
 「夜のオデッセイ」ジェイムズ・イングリス 一転して静かな叙情性あふれるハードSF。作者の情報は全くないらしいが。
 「ローマという名の島宇宙」バリー・N・マルツバーグ 批評家、アンソロジストビル・プロンジーニとの共作など様々な顔を持つ人で、もちろん重要なニュー・ウェーヴSF運動家の一人。個人作の方では、『アポロの彼方』(読んでないけど)などしつこく真面目な発狂SFを書いている人という地味な印象がぬぐえないが、本作は創作メモの形式を取ってその過程を明らかにしながら話を進めていくというスタイルがはまっていてなかなか面白い。初めの部分で実生活の悩みとSF的発想がごちゃごちゃ入り混じる下りには腹をかかえて笑った。そのノリですすめば大傑作になったのに。
「ブルー・シャンペン」ジョン・ヴァーリイ 体験テープというメディアのスター女優と恋に落ちる主人公。彼女には秘密があった。これは再読。やはり傑作。身体改変に伴う痛みの部分がしっかりと描かれているところが素晴らしい。