『ノーストリリア』 コードウェイナー・スミス

 先日久しぶりに読んだコードウェイナー・スミスが素晴らしかったので永らく積読していた『ノーストリリア』をようやく読んだ。さすがはSFのオールタイムベスト上位に常に選ばれる作品で、名作らしいまた実にSFらしい名作だ。
 ひとりの少年が地球を買い取った。そして彼の欲しいものは郵便切手だったのだ・・・。
 こんなあらすじを書くと短編みたいだが、本当にそうなのだから仕方がない(実はその少年は命が危険になって言われるがままに地球を買ってるんだけど)。なにせ地球を買ってしまったのだから、宇宙を舞台に大騒動が始まり否が応でも少年はそれに巻き込まれていくのだ。SFらしいというのは思春期の(全能感と不安感が交錯する)少年が様々な人や出来事に出会って成長をする、という展開を示すからだ。とんでもない空想をふくらませるというのはやはり少年の特権であり、SFと少年というのは当然親和性が高い。しかもこのお話には魅惑的な年上女性ク・メルも登場するのだからまさに王道で、唯一の長編がこれであるというコードウェイナー・スミスははずさない人なのだなあとも思わされる。そしてもちろんこれもまた孤独な少年の物語だ。テレパスが当たり前の世界でその能力を持たず不適格者の烙印を押され続けてきた主人公ロッドが<憎しみの広間>で見る幻想的なシーンは美しくも残酷で切なく、圧巻だ。
 人類補完機構のシリーズに属する作品で、ク・メルをはじめ他の短編に登場する人物や事項も多く登場するので、基本的には単独で読むよりいくつか短編と合わせて読んだ方がより深く楽しめるはず。って『鼠と竜のゲーム』以外は本書だけじゃなく品切れかよ!とにかく短編の方もぜひ・・・