『<新パパイラスの舟>と21の短篇』 小鷹信光編・著

 少ーしずつ読んだから、読了までに約2年ぐらいかかってしまった『<新パパイラスの舟>と21の短篇」。テーマ別のミステリに関するエッセイとそれぞれにおまけの短篇がつけられた小鷹信光による何とも贅沢な一冊。
 昔掲載された文章がそのまま載せられていて、そこに註釈がつけられていて、さらに付記が加えられているという変則的な構成。該博な知識に基づいて軽妙にミステリの魅力が語られる楽しいエッセイ。面白かった作品を羅列しておく。
「拝啓ファルケンハイム博士」グレアム・グリーン クリスマスものとは名ばかりのヒドイオチが素敵。
「隣人」ポーリン・C・スミス 近所や隣人に関する軽妙なミステリっていうのは多いんだなあ。
「出口」ウィルスン・タッカー 究極の脱獄法の話。おーこれはアレではないか!
「犬の厄日」クライド・シェイファー 保安官がトロい部下に真っ青になる軽妙なコメディ。
「ラム好きな猫」C・B・ギルフォード 『棄ててきた女』収録のウォルポール「白猫」へ対抗しての作品らしい。こういう対決は大歓迎だな。寧ろ猫嫌いの人が反応しそうな動物ホラー。
「窓」レイ・ブラッドベリ 老人の追憶はいつもの電話で呼び起こされる。見事なシチュエーション。さすがブラッドベリ
「死者からの招待状」リチャード・ハードウィック タイトル通りのお話。テンポよく二転三転。
切り裂きジャックは言った・・・・・・」ロバート・アーサー 蝋人形館に逃げ込んだ死刑囚。ニヤリとなる話。こういうのは好み。
「密造修行者の肖像画エドウィン・P・ヒックス よく出来た絵画ミステリ。

 テーマ別の紹介というのはネタばらしにも通ずる、ミステリの紹介としては微妙な点もある方法だとは思うが、一方でファンを惹きつける憧れの展覧会のようなものでもある。稀代のミステリ通によるこの本はミステリマニアではない短編好きにとっても夢の一冊である。