『自負と偏見』ジェイン・オースティン&『高慢と偏見とゾンビ』セス・グレアム=スミス

 ゾンビイヤーの今年、『高慢と偏見とゾンビ』を読まなくてはいけないので、まず元ネタにチャレンジ。
 主人公はイギリスの田舎町に住むベネット家五人姉妹の聡明な次女エリザベス。近所に引っ越してきた誠実な紳士ビングリー
美しい長女ジェーンがいい仲になり喜んでいると、彼の友人で気難し屋のダーシーが登場してきて。
 娘たちと裕福なイケメンが惚れた腫れたの騒動を繰り広げる、要は200年前のラヴコメ。聡明だが詮索好きでお節介焼きのエリザベスと一癖あるダーシー、お人好しのジェーンと温厚なビングリーとコアとなる人物たちの配置が現代的で分かりやすく話も破綻なく綺麗に仕上がっていて完成度高し。実は脇役の方がさらにインパクトがあって物語を支えている。俗物でデリカシーのないコリンズ牧師。世間体ばかり気にしてさっぱり周囲の状況が見えていない母親ミセス・ベネットにマイペースな夫ミスター・ベネット。一番のイケメンだがわけありのウィカム。自己中心的で怖いもの知らずのお騒がせ末娘リディア。いずれも非常に生き生きと描かれている。
 ということで名作ではあるんだが、実は読むのには多少時間がかかった。正直なところ割合読みにくい面もあるのだ。理由の一つはこの時代の家制度(特に相続制度)が話の重要なポイントなのだが、予備知識が無いのでいまいちピンとこない。逆に言うとこの点はある意味その時代のことを知るきっかけを与えてくれる美点ともいえる(例えば当時は交通がまだ発達していないから、近所に立派な独身の紳士が引っ越してくるのは大事件。結婚してからも親が会いに行くことが容易だからだ。この辺はなるほどという感じ)。
もう一点はやたらと登場人物が饒舌な事。自分語りが多い人物ばかり目立ち、かなり鬱陶しい(だらだらと愛の告白とかが続いてもねえ)。これは最後まで馴染めなかった。というわけで名作とは思うが好きな作品には今のところならないなあ。

 そしてゾンビ。ゾンビの方はJ・オースティンも共作扱いになっている様に、非常に原作に忠実。そこにゾンビ成分がしれっと注入され(武道ネタも面白い)、時代の雰囲気も原作そのまま。で、実はそのあたりが意外とこの本の問題点。つまり、あまりに真面目に原作をなぞらえるために、読んでいてだんだん重苦しく感じられるのだ。ゾンビ成分の注入が破綻なく行われるよう作者が熟考しているところが想像されてしまい、この手のパロディ作品としては何とも微妙。もっと短めで原作の大事なところだけ押えて、より派手なアクション・ナンセンスな演出を盛り込んだ方がよかったんじゃかなー(笑)。というわけでファンライター的な人が書いた2次創作ものかなと思っていたら、「高慢と偏見」のゾンビ風味のリメイクだったという感じ。だから原作の謎な部分についてはそれぞれ現代的ゾンビ的(?)な解釈がされており、むしろこちらの本を読んだ方が謎を整理出来るかもしれない。
 生真面目な怪作といったところか。