『希望』 瀬名秀明

 瀬名秀明の第一短篇集(連作を除く)。どちらかというと落ち着いた科学者作家といったイメージが強い著者だが、挑発的でチャレンジ精神に富んだ熱い一面を感じさせる一冊。
「魔法」 妬みからの傷害事件で表舞台から消えてしまったマジシャンがロボット工学の技術で復活。マジックネタが見事に織り込まれている。
「静かな恋の物語」 表題作の習作というと言い過ぎかな。ちょっと印象が弱い。
「ロボ」 シートンの狼王がモチーフになっている。解説にあるように「パラサイト・イヴ」がSFファンの間で「擬人化され過ぎている」という批判を受けたことに対する返答だろう。マニアが考えそうなことをさらにひっくり返すというところがニクい。
「For a breath I tarry」 イラストが先にあって小説をつくるという企画からのものの。短いが進化を長いタイムスケールで俯瞰したヴィジョンがいい。
「鶫と鷚(つぐみとひばり)」 航空機黎明期の大陸横断競争をテーマとしたメタフィクショナルな作品。人と技術の未来を暗示する内容でもあるようだ。飛行シーンが素晴らしいがやや難解。
「光の栞」 異形コレクションフランケンシュタインテーマに合わせたもののようだが、むしろひとひねりして生命科学の技術を美しく描いている。この辺のチャレンジ精神には敬服。
「希望」 壮大な科学実験のために父から特殊な環境で育てられた少女。重力と人間というテーマを軸に、<エレガントさを希求する>安易な思考や形骸化した科学コミュニケーションへの辛辣な批判ものぞく強烈な作品。これも従来のSFの背景にある<常識>に果敢に挑んだ問題作。今回再読だったがやはり凄い作品だ。
風野春樹氏の情報量の多い的確な解説も大いに理解の助けとなってくれる。個人的にはロボットSFに興味が薄いことや難解な作品もあるらしいことから近年瀬名作品はご無沙汰だったが、各作品しっかり刺激的かつ挑発的な試みを行なっていることがよく分かりうならされた。「デカルトの密室」や「第九の日」なども読まないとなあ。