映画『二つの祖国で 日系陸軍情報部』

 珍しく真面目なドキュメント映画を見てきた。http://www.cinematoday.jp/movie/T0015848
 
 太平洋戦争中、アメリカ陸軍に存在した秘密情報機関MIS(ミリタリーインテリジェンスサービス) 。主に日系2世から構成され、日本語力と日本文化の知識を生かし、日本軍に関する情報を徹底的に解析する役割を担っていた。高齢になったその元兵士たちの任務、苦悩の実情に迫る。

 まず日本で生まれた後に海外へ移住した親の子どもたち‘二世’とその中でもいったん日本に戻った‘帰米’(戻されるのは親の意思による面もあるようだ)によって経歴が異なり、特に‘帰米’の方が日本語力が高く重要な仕事を任されていたようだ。いずれにしてもどちらも日本に親類縁者や友人がいるために、想像を絶する複雑な心境だったようだ。一方で真珠湾攻撃による奇襲で戦争開始後、日系人であることから収容所に入れられる苦労もあり、日系人以外よりもさらに愛国心をアピールせざるを状況もあり、MISでは命を賭して使命を全うする兵士が多かったようだ。
 基本的には直接戦闘要員ではないものの、同じ戦場に兄弟が居て死亡した事実を後に知った人も出てくる。沖縄出身であり地理にも詳しいことから皮肉にも沖縄上陸の責務を果たすことになる元兵士の運命も胸に迫るものがあった。また日本で世話になった親戚は、その子どもたちが戦死してしまった事情から日本にいた時のお礼を言いたいが、元米軍兵士としてその親戚が亡くなるまで言えなかった後悔を口にする人もいた。そんな残酷な話が次から次に出てくる。しかし彼らはその高い情報解析能力で米国に勝利をもたらしたのだ。
 印象深かったことの一つは日本軍が捕虜になるのを恥として自殺をするように命じていたため、実際捕虜になってしまうと巧みなMISの誘導(日系人が日本語で緊張を解くため)で、機密をあっさりもらしてしまうことだ。米軍では捕虜になった時の黙秘マニュアルがあり、それ一つを採っても日本軍の情報戦への意識の低さが表れており、他にも情報戦への弱さが関係者や研究者によるコメントで相次いでいた。
 また戦後にもGHQの一員として彼らは活躍する。しかしルーツの国の荒廃や戦争の爪痕は新たな心の痛みをもたらすものでもあった。それでも彼らは日本の復興に大きく貢献し、米軍でも近年栄誉ある賞によって功績を讃えられたのだった。
 大変興味深い内容だった。震災など日本人の我慢強いメンタリティうんぬんの部分は多少蛇足のような気もしたし、ここで扱われているのは元兵士たちの苦悩の一部でしかないだろう。エンディングのコメントで「顔が日本人と似ているからといって、その気持ちが全て分かると思うのは危険である」といったような指摘もあり、それもまた忘れてはならない。しかし個人個人にとって戦争というものがいかに過酷で非人間的な苦しみをもたらすものであるかをあらためて知る映画であった。

やや本筋と関係ないところで気になったのは、日系元兵士と白人系の義理の息子の会話。元兵士は「日本人としてプライドを持ってどんな訓練にも耐えた。(一般の白人系の)<米国兵>よりも根性があった」と誇らしげに語る部分で、義息は「しかし、お義父さんは<米国兵>だろう。<日本兵>ではないのだから、いったい誰が<米国兵>かいつも話が分からなくなるんだ」と指摘。すると「いや・・・それは・・・」と元兵士。 義息は「差別を受けた人はこういう風になるんです」と言う。これはどうなんだろう悩ましい話だなあ思った。苦労した日系の人だから肩を持つ訳ではないが、これはどんなルーツからでも移民して世代が新しい人達にはつきまとうアイデンティティ不一致の問題なのではないだろうか。そうした悩みが、差別される時に顕在化するのは間違いないが、差別が無かったら悩まないだろうか。自分にはそうは思えない。肌の色、食習慣や生活習慣、友人の文化その他もろもろあって自分のアイデンティティが形成されるし、それが時に差別への布石になったりもするかなりデリケートな部分のような気がする。義息氏はシステムを改良すれば国への帰属意識で全てが乗り越えられるといったような認識を持っているようにも思えてしまった。差別を肯定する訳ではないもちろんないが、システムだけで改善すると考えているのなら楽観的過ぎるというのが自分の認識。