『時間都市』 J・G・バラード

 これは『終着の浜辺』より、さらに〈普通の〉SF短編集のように感じられる。普通というのはアイディアを中心に話が展開されることや、その顛末がはっきりとしたオチとして提示されるといった作品が多いことによる。それにしても見事なアイディアと色彩豊かな描写による華麗な作品の多いこと。初期バラードも後期と感じは違うが中々良い。
  ヴァーミリオン・サンズの「アトリエ五号、星地区」「プリマ・ベラドンナ」なんかはその典型。そして〈時間の花〉が咲く庭園に住む伯爵夫婦に忍び寄る危機を描いた「時間の庭」。わずか13Pの小品ながら美しい名品。時間を管理されてしまった都市で逸脱していく、時間にとり憑かれた男の表題作、超人口過密都市の「至福一兆」(今の日本ではどのように思われるんだろう)、超超高層ビルを描いた「大建築」などはいかにもバラードらしいモチーフ。アート色の強いところは好みが分かれるだろうし、おや?というような凡作が混在しているが十分に楽しめる作品集。