『ディケンズ短篇集』

 普通に現代的な短編が多い。訳者の解説通り、ホラー風味、ミステリー的仕掛け、異常心理などが特徴となった作品集。「奇妙な依頼人の話」「狂人の手記」「ある自虐者の物語」、「ジョージ・シルヴァーマンの釈明」にみられる異常心理や鬱屈した人間心理の告白は時代を越えた普遍性がある。それも平易に表現され、大衆作家としても人気があったのも納得。話のつくりとしても「狂人の手記」「チャールズ二世の時代に獄中で発見された告白書」「追いつめられて」にはミステリの手法、「信号手」にはミステリとホラーの手法が使われており、うならせられる。特に「おいつめられて」は本格ミステリだし、不勉強ながら初読の名作「信号手」は鉄道ネタのモダンホラーで、例えば『闇の展覧会』に載っていてもおかしくないぐらいだ。文豪恐るべし。
 ところでなぜ唐突にディケンズかというと、これが面白かったからだ。ところどころ出てくるディケンズネタは恥ずかしながらほとんど分かんなかったが、ちょっとスチームパンクっぽい佳作でオチもなかなか良かった。他の回は時々しかみていないが、ややチープな感じ(リメイクなんでたぶんわざと)とイギリス風味が楽しめる。