『高い城・文学エッセイ』 スタニスワフ・レム

 というわけで読んでいた評論集とはこれだったのだが、読了するのにかれこれ一年くらいかかったかもしれない。20年以上前からレムの評論やインタビューなどを時々読んでいた記憶があるがいまだに難解で、自分の進歩のなさにがっくりくることもあった。ただ、昔は(凄そうなんだけど)その全てが持って回ったように感じられたのが、今回は随所に驚くほど真っ当な意見が含まれていると思えた。これはこちらの理解力が上がったのではなく、時代が追いついたというやつで、予見的能力の優れた怪物レムだからこそである。「宇宙戦争」の火星人の文化に対する疑念、「ロリータ」の逸脱への賞賛、「ストーカー」の民間伝承への擦り寄りについての穏当な指摘、ディックへの積極的支援(注意深く好意的に読め!だってさ)などなど誠意に作品と対峙する姿が垣間見え、〈気難しい皮肉屋〉というイメージに囚われていると意外なぐらいだ。
 順序は逆になったが、大きな読みどころはむしろ前半の自伝の方だろう。特によく指摘される架空の官僚組織を徹底的に作り上げる話は圧巻で、少年時代からとんでもない人間であったことが分かる。もちろんどんなおもちゃも壊してしまう可愛らしい姿もみられるが。
 ところで「記憶力に恵まれない私のような者」という下りはなんかの悪い冗談でしょうか?