『まっぷたつの子爵』 イタロ・カルヴィーノ

 有名な作品だが初読。
 牧歌的な作品を勝手にイメージしていたが、解説にもふれられているように影のある小説である。時代背景もあり、ふたつに分かれた世界(1951年に書かれたというから冷戦がモチーフのひとつに違いない)、善と悪についての重い考察がメインのテーマである。戦争経験のある作者だけに血なまぐさい描写もあるし、作品自体の舞台である17世紀のユグノー弾圧も関連があるらしい。
 暗い部分ばかり強調しすぎたが、左右半分ずつになってしまった子爵の巻き起こす騒動は波瀾万丈奇想天外でありながら可愛らしいく十二分に楽しいものだ。SFファンにおなじみの土橋とし子氏のイラストもマッチしている。重層的な作品ということだろう。