『ラルフ124C41+』 ヒューゴー・ガーンズバック

 ワールドコンの‘テスラ―ガーンズバック連続体’の流れで、積読だった『ラルフ12441+』を読んでみた。ごく単純なストーリーにおびただしい数のSFアイディアをこれでもかというほど盛り込むパターンは意外に今のSFにもありそう。エーテルとか時代を感じさせるものも多いが、アイディアは書かれた年(1911)を考えると発想の豊かさには敬服する。一方で話としては、天才科学者が主人公でロマンスがあって悪役がいてというフォーマットも継承されたのかなという気もする(オリジナルとは考えにくいけど)し、オチもちょっと興味深い。無線機器開発も行ったという彼の科学知識(と実体験)に基づいたアイディアの圧倒的な量には驚かされるし、何よりむしろアイディアが物語の主役である転倒ぶりが特徴で、後のSFの方向性をつくったと言えそうだ。そしてその核にあるのは、おそらく当時発展していった電気事業(解説のガーンズバックの生涯に電気事業とのかかわりがのっている)。いわば「電気の夢」だ (電波、と言った方が感じが出るかも)。もちろん今となっては、未来人や火星人の心理の平板さ(現代人との全く同じ思考)、無防備な科学礼賛ぶりなどに古めかしさがあるが、初期SFの一つの典型的なフォーマットを見るという点で永年のSFファンとしてはなかなか楽しい読書であった。さらに面白いのは解説に書かれているその生涯だ。ルクセンブルグの裕福な家に生まれ、その後アメリカに渡り、無線・出版などの事業に取り組み、自らも小説を書いてSFの祖となるというまさに波乱万丈ともいえる経歴。トンデモ気味な出版業者との戦い、なんてオマケまである。むしろ現代にこそ楽しめるようなネタばかりだ。
 ところで電気を使って、植物の成長を促進するというようなネタが登場するが、わざわざ「交流ではなく直流でないといけない」という内容で書いてある(P79)。別に本筋とは関係ないし、テスラとの関係を考えれば交流でもいいような気がするが、ちょっと気になるところだ。