『変身/掟の前で他2編』 カフカ

  薄いのでちょっと読んでみた。タイトル通り4編入っている。
 カフカは短編しか読んでいないので(『審判』を途中で挫折したのを思い出した)、特に何かをいえるような立場にはないが(こんな言い訳ばっかりで失礼)、生前に「自分の作品を全部捨てて欲しい」と友人に言い残したことは知っていた。
 本書によるとどうやらカフカ自身が書いたテキストの問題は深いようだ。例えば、上記の友人にあたるチェコの作家マックス・ブロートはカフカ作品を遺言に背いて保存した偉大な人物だが、カフカが言い残したのは「未完の作品などを全て破棄して欲しい」ということらしく、<全て>というのはブロートの作り話らしい。またブロートは作品の編集も行っていたらしい。
 現在あるカフカ全集は3種類。本書の解説から一部引用すると、

1.ブロート版カフカ全集 1935年〜
 「読みやすく」が編集方針。新潮社のカフカ全集の底本。
2.批判版カフカ全集 1982年〜
 1968年のブロートの死とともに、カフカのノート類が読めるようになり、1974年から研究者グループが、カフカの手稿にもとづいて、テキストを確定したもの。白水社の全集の底本。
3.史的批判版カフカ全集 1995年〜
 2でテキストを確定する際に生じるバイアスを排除しようとして生まれた全集で、紙本とCD−ROMの2本立て。生前に出版された本は復刻版で、カフカが残した紙束(例えば『審判』はそうだったようだ)はPDFファイル化されてCD−ROMに。これ、すごいねえ。

 で、本書は3を元にしたもの。訳者は、犬のように(忠実に)を目指したとのこと。底本の違いは例えば改行にもあらわれているらしい。
「判決」 『カフカ短篇集』にも入っていた。訳による違いについては難しいが、とにかくいかようにも読める傑作だ。
「変身」 前に読んだのは随分昔だなあ。もちろんまごうかたなき得体の知れない名作なんだけど、家族にしのびよる金銭的な問題がじわじわ訪れる流れが巧みだなと今回は思った。
「アカデミーで報告する」 出口のない猿の報告。ホントにそういう話なんですよ。爆笑。
「掟の前で」 これも『カフカ短篇集』にあった。こちらは素人でもテキストの違いが分かる。なにせ『カフカ短篇集』より圧倒的に改行数が少ないのだ(というより改行がない)。改行数が少ないと、『カフカ短篇集』の方で感じられた、切れ味の良いショートショートといった趣きより、不思議な詩的な味わいが醸しだされる気がする。