『鳩が来る家』 倉阪鬼一郎

 倉阪鬼一郎ワールドを探求すべく、読んでみた。なかなか粒揃いのホラー短編集である。以下特に面白かったものを。

「鳩が来る家」 船乗りだった父が建てた家。両親の死後は朽ちかけて、何故か鳩が群がっている。母親の助言も聞かず、息子もまた船乗りになるが・・・。灰色の鳩で覆われた家のイメージと、ややミスマッチな海という組み合わせが面白い。
「裏面」 生徒である<僕>は、<先生>の授業を懸命に聞き、その質問に必死に答えなくてはならない。誰がいちばん早くできるか、熾烈な争いなのだ。ちょっとSFっぽい奇天烈なホラー。仮面についてのあやしいディスカッションとかあって、こうゆうの好きなんだよなあ。
「布」 恐怖についてのタイポグラフィックな考察から始まるホラー。こうした作品にこの人の特質が見られるように思われ、これまた好きなところだ。
「蔵煮」 くらに、ってクラニーって思ったあなた!本当にそうみたい。内容は、まさに身の毛もよだつ、むかつき系ホラーの怪傑作。ああ食事時にこんな話を読んでは駄目といったのに!
「黒い手」 高齢の父親を施設に入所させようと、友人と下見に行く主人公。新興宗教がからんでいるというその施設は、墓地も近くにあり、リーズナブルというが・・・。現代社会を反映したちょっと皮肉な話に仕上がっている。
「緑陰亭往来」 あまり人気の無かった落語家。落語も早々にやめてしまい、老人となった今、節気ごとには寄席に足を運ぶ。落語家の世界と二十四節気が背景にうまく使われている。いやあどちらも恥ずかしながらよく知りませんでした。

ミステリ界でも活躍の著者らしく仕掛けも十分で、そうした意味でも期待を裏切ることがないので、幅広く楽しめる短編集だと思う。

ところでこれを書いていたら、最後のところで保存に失敗し、全ての文章が消えて書き直しになった。恐るべしクラニー本!なんかの呪いなのか・・・(まあ最近PCの調子は悪いんだけどね)