DVD‘殺人の追憶’

   以前から観たいと思っていた。2003年の作品だからもう4年以上か。今更かもしれないが、面白いねえ。
  1980年代にソウル郊外で実際に起こった連続殺人事件がモチーフという。とある農村で若い女性の惨殺死体が発見される。見込み捜査、自白頼みの取り調べを繰り返し成果の上がらない地元警察は、ソウルから若手刑事を呼ぶ。たたき上げの地方刑事とソウルのインテリ若手刑事(キム・サンギュン)は反目しあうが、それを嘲笑うかの如く殺人が続く。やがて二人は力を合わせ、有力な容疑者と対峙する。
   極端な暴力がらみと思い込みの捜査が続く地方の警察とそれに苛立つ都会のイケメン刑事という図式、あと一歩で犯人が捕まらない偶然など、ベタともいえるような展開が話の後半になっても続く。しかし、終盤になりテンションの高まる中、話は思わぬ様相を呈してくる。
   ソン・ガンホが素晴らしい (以前からあの人なつっこいような恐いような顔がイイと思っていたが)。話としては当然キム・サンギュンが中心であるはずだし、基本的にはそのように展開するのだが、本作はカタルシスが感じられるような通常のミステリードラマではない。そのため、前半に時代遅れの刑事を人間臭さく演じていたソン・ガンホが終盤に見せる表情が実に印象深く、その存在感がグッと増してくるという演出になっている。
  特に終盤の犯人視点での描写あたりからの演出はスリリングだが、大変理知的に作られていると思う。その意味でポン・ジュノ監督について、柳下毅一郎さんの昔の日記で黒沢清との類似が言及されているのには全く同感である(文章は‘グエムル’についてだが)。自分なりの解釈では、理知的な一方で理性では割り切れないものを描こうとする姿勢にあるのではないかと思う。いずれにしても猟奇連続殺人事件をめぐるもどかしさとやりきれなさが形となって表現されている傑作である。その‘グエムル’も観なきゃなあ。