DVD‘永遠のモータウン’

   unsung hero 直訳すると「栄誉を受けることのない英雄」といったところ。「縁の下の力持ち」なんて訳もある(現在読んでいる『生物と無生物のあいだ 』にこの訳が載っていた)。
 そのunsug heroesの映画である。幾多の大ヒットを飛ばした黄金期のモータウン。そこにはスモーキー・ロビンソン、フォー・トップス、シュープリームスマーヴィン・ゲイスティービー・ワンダーなどなど輝けるスターが勢揃いしていた。しかし、その裏側で一日に3曲は当たり前というペースでほとんどのヒット作をものにしていたのは、バックバンドのメンバー達だったのだ!
  、当時の曲作りの様子やメンバーの驚異的なプレイぶりやツアーでのハードで愉快なエピソードといったドキュメンタリーと、ブーツィー(!!)、チャカ・カーンなど豪華なメンバーで繰り広げられるモータウン・メドレーによるライブとが交互に登場するといった構成。
 表舞台に出られなかった彼らも少しずつ注目される中、1960年代終盤にモータウンデトロイトからLAに移り、メンバーは離ればなれ、中核メンバーの一部はアルコールなどで死亡する。あまりに有名な‘マイ・ガール’のイントロを発明した故ロバート・ホワイトが、レストランで名乗り出かけたのに止めてしまうというエピソードが切ない。
 それでも彼らの友情は消えない。一部に白人もいたメンバーたちは人種差別の荒波も越えようやく再評価され満場の拍手の中、ライブを行う!

 と、涙ながらにこのDVDを見終えたが、ここでなんとも言いようのないオチがつく。
 実はLA録音はもっと早期に始まっており、このDVD等で神格化されているジェイムズ・ジェマーソンによるプレイといわれているものの相当数(しかも革新的な名曲の多く)が白人女性ベーシストのキャロル・ケイによるものだというのだ!つまりファンク・ブラザーズによるヒット曲への貢献は限定されたものだったのだ!またまたびっくり!(出典はココ。1999年だから、結構前から知る人ぞ知る話だったのだなあ)
 どうやらキャロル・ケイが白人で女性だったことが、‘黒人が作り上げた会社による、黒人も含めた幅広い層に受け入れられるポップ・ミュージック’という一種独特のイメージを狙っていたモータウンの戦略にそぐわず陰に追いやられたということらしい。それこそまさにstanding in the shadow of motown(DVDの原題)だ。さらに彼女自身はファンク・ブラザーズモータウンでの貢献を認めているらしいし、陰になっていることより、彼女自身の誹謗中傷を目的としたサイトがあることに立腹していたようだ。うーんなにやら信憑性がありそうな気もする。(このサイトにはさらにはドアーズの裏話なども訳出されている。確かにセッション・ミュージシャンからみるとロックやポップ・ミュージックの歴史も随分違うのだろうなあ。ちなみにザッパはやっぱりちゃんとした人っぽいエピソードがあるのがなんかいい感じだ)
 
 とたんに歯切れが悪くなってしまうが、真実はどうにしろこのDVDはライブとしてとても楽しい。ここには<バックバンドの再評価>というネタにかこつけて、モータウン好きの連中が同窓会を兼ねたお祭りをやっているノリがあるからだろう。これから謎も込みで、もっとモータウンサウンドを聴いてみたくなった。