グラインドハウス!

  昨年見逃した“デス・プルーフ”&“プラネット・テラー”だが、幸運なことにとあるトーキョー・グラインドハウスで両方観ることが出来た。DVDにならないというヴァージョンは観られなかったことになるし、こうした鑑賞を意図した訳ではないものの、結果的に二番館という適切なシチュエーションでご対面となったことは有難い。
 で、中身はというとやっぱりなんというか凄い企画だな。70年代映画のフィルムの傷やブレまでも徹底的に再現し、歴史改変をして<70年代映画監督>になりきってしまおうという倒錯振りが天晴れ。両作品のテイストの違いも良いし、これはひとつの金字塔だ。
 
 “デス・プルーフ”は実に『クラッシュ』(バラード)な話であることに驚かされる。レンタルビデオ屋の兄貴があのモチーフに挑戦するとこうなるんだなあ。相変わらずだらだらとした会話が続くタランティーノ映画のテンポにはどうにも馴染めないのだが、後半の会話部分は伏線として効いてくるのでいつもよりは気にならなかった。ラストのカタルシスがいいね。全体におもちゃ箱をひっくり返したような映像・音楽センスが楽しい。
 
 “プラネット・テラー”の骨格は正攻法のゾンビもの。ゾンビの造形がベタなのも返って味わい深い。それでも新鮮なのは70年代演出だけではなくそれを仕掛けとした実に巧みな編集がされ、絵空事をそう感じさせないようになっているから。クライマックスの兄弟のシーンやヘリコプターの上昇シーンなどは感動的といってもいいぐらいだ。タランティーノは両作品に登場しているが、特に“プラネット・テラー”での活躍ぶりは大変なものがあり、見事なサーヴィス精神を発揮してくれている。あと架空映画の予告編もいいね!マチェーテ!出てくる俳優たちの面構えのどれも濃ゆいこと濃ゆいこと!
 
 この“グラインドハウス”はあくまでもB級映画である。B級映画になろうとしてなっているのだからこれは罵倒でもなんでもない。しかしここにはB級に徹しきったが故にあらわれるさわやかといっていいぐらいの純粋な輝きと幸福感が感じられる。タランティーノとロドリゲスに感謝をしたい。
 と、書いたところで一抹の不安がある。自分は上のような事をいう資格があるほど映画にのめりこんだ人間ではないからである(世代的には70年代映画の記憶はあるが)。高校時代の友人は退屈な授業を抜け出しては、長く座っているとスプリングが当たって痛くなるような古びた椅子の映画館に座布団を持参して通っていた。この映画はそういった友人の様な人々のためにこそあるのだと思う。