『年刊SF傑作選 1』 ジュディス・メリル編

 年刊SF傑作選はいつか読むと思って買ってあった(6まで)。これまで積読していたが、speculative方面が盛り上がっているので、1巻目を読んだ(引き続き読んでいけるかというとそれは不透明で・・・)。SFを幅広く捉えるジュディス・メリルのこと、いわゆる普通のSFは少なめ。ただ実験的なものばかりかというとそうでもなくて、異色作家短篇集好きにも楽しめるような<一風変わった話>といったものも多い。また、あまり名前を聞いたことがない作家も多くて、その辺も楽しい。それから解説で知ったのだが、この年刊SF傑作選って1956年に既に始まってたんだな。本書は第6集で1960年に発表された作品が主に収められている。(○が特に面白かったもの)

「あとは野となれ・・・・・・」○ ホリー・カンティーン 隠遁した男は分身を生む魔術を身につけた。SF選集なのに、いきなり<魔術もの>だもんなあ。ところがこれが予想外の展開でね。唖然とする傑作。
「なくならない銅貨」 バーナード・ウルフ 貧乏に苦しむ主人公が「いくら使ってもなくならない銅貨があったらな」と口にすると、井戸から返事が。こちらはいわゆる<三つの願いもの>。主人公が理知的な考察をするので、これまたユニークな作品に仕上がっている。作者はトロツキーの本を書いた人らしく、そのことは例の本に・・・。
「マクシルの娘と結婚した男」○ ウォード・ムーア とある村にやってきた男には奇妙な能力があった。叙情的な正統派のSF。ちゃんとこういうのも入れるバランス感覚がいいですね。
「わたしを創ったもの」 R・C・フェラン 小説を創る機械の話。普通かな。‘十匹の猿を十台のタイプライターにつかせ、十万年出鱈目にキーを押させ続けると、シェークスピア全集が出来る’というネタ自体はラファティの「寿限無寿限無」と同じと思われるが、出典は何なんだろう。
「JG」○ ロジャー・プライス 知性あるゴリラの部族の一頭であるJGはひょんなことから人間世界へ。よくあるネタだが、主人公を完全に擬人化していないところが巧い。シリーズ化も可能な感じ。
「知らぬが仏」○ ヘンリー・スレザー 本書の表記に従ったが、今はスレッサーかな。強烈なショートショートの傑作。
「大蟻」 ハワード・ファースト 主人公がみた信じがたいものとは・・・って、タイトルがこれだからねえ。ありがちとまではいわないが今ひとつ。
「別の名」 クリストファ・アンビル 緊迫した米ソの会議の中、戦争回避のために行われた実験とは。冷戦時代を感じさせる皮肉な作品。
「魅惑」○ エリザベス・エメット 森の中の城に住む老人が死んだ。老人の蔵書を整理する仕事の公募で選ばれた主人公は、城の書斎で数週間過ごすことになる。当然舞台設定からしてホラーだし、話の筋もとりわけ目を引くようなものはないが、城と読書という取り合わせが素晴らしい雰囲気をもって描かれている。集中一番好きかも
海浜の情景」 マーシャル・キング バーニーは自由に海をみられる日が来て大喜び。これは明快なSFで、よく出来ている。
「雪男」○ ウィリアム・サンブロット 主人公たちは雪男を探しにヒマラヤへ。これまた特別な話とへいえないかもしれないが、短いのにしっかりと山岳冒険小説になっているのが見事。
「頭は使いよう」 ウォールト・ケリー 漫画。こういうものを入れるセンスを筒井康隆が日本SFベスト集成に取り入れたのかなあ。
エド・リアはさほど狂ってなかった!」 ヒルバート・シェンク二世 ナンセンス詩人・画家エドワード・リアのパロディとのこと。誰?と思ったが、ルイス・キャロルに影響を与えたほどの有名な人で訳本も出ているんだな無知あしからず(エドワード・ゴーリーの本に挿絵を描いたものも去年柴田元幸訳で出ているな、何となく見覚えが)。というわけで、現在だったら原文と一緒に載せるような作品。
「てっぺんの男」 R・ブレットナー 傲慢な登山家と一緒に険しい山を行く主人公。楽しいショートショート
「家の中」 ジョーゼフ・ホワイトヒル 家の中にいる‘別のもの’はじっと食堂を覗きこんでいる。これもショートショート
「妖しい世界を真剣に」 レイ・ブラッドベリ <オズマ計画>(SETI計画の前段階でしょうか)に関連したエッセイ。編者による紹介文の‘反SFの天才’という表現はさすがに戦略的にすぎるかも。

全体に50年近く経っても古びていない作品が多いのはさすがだ。