『年刊SF傑作選 2』 ジュディス・メリル編

  さて、やはり面白かったので2も読了。あたりまえのことだが、年刊だから別にテーマがあるわけではないので、よくいえばバラエティに富んだ悪くいえば内容にバラつきのあるアンソロジーとなる。それでもすんなり読ませるのは、全体のレベルが高いせいか、編者が目利きであるためか。(以下○が特に面白かったもの)

「星からの道」 カーティエ・ハールバット 「ポモロイ谷の人びとが、パラディー氏に空をあたえた。夜明けから夜明けまでの空をすっかり--雷雲や飛び去る野鴨や赤い月の出まで添えて。」という冒頭は導入部コンテストの上位入賞しそうな素晴らしさ。全体もイントロにふさわしいいい短編である。アメリカの田舎を舞台にした牧歌的なSFというのも一つの定番だなあ。
「ダング族とともに」○ ジョージ・R・エリオット 主人公は、人類学の研究のため、アマゾンの首狩り族であるダング族に潜入することになった。文明同士の衝突がテーマになるようなシリアスな面もあるが、話自体としてもスパイもののスリリングさがある傑作。‘セント・ジェームズ病院’が登場するのはなんでだろう。
「“ただちになんなりと”」 ロバート・ビバリー・ヘイル 売れない画家に訪れた奇妙な出来事。軽妙なコメディ。1947年頃のニューヨークが舞台で、ジャクソン・ポロックの話が関わる。
「パーキー」 デヴィッド・ローム やせてのっぽの占い師パーキー。その雇い主である主人公は、何ものかがパーキーをスカウトしていることに気づく。肩の凝らないショーショート。
「早撃ちの死」○ ジュリアン・F・グロー 開拓期の西部。医者である主人公はわけありのリボン屋ダーティ・ジェイクとなぜか親しい。ある日二人は山道で変わった白骨死体と道具をみつける。舞台とアイディアとオチのバランスが素晴らしい傑作。
「シナの茶全部」○ R・ブレットナー いたずら小僧の“ぼく”を、おばあちゃんは叱ると同時にとある昔話をはじめる。楽しいほら話。
たんぽぽ娘」 ロバート・F・ヤング  ちょう有名な話だが初読。三十七才でデビューし、こうしたピュアな作品を書いていたとは意外。
「エディの受賞」 J・F・ボーン 今回のノーベル賞は・・・。よくあるネタですな。
「自由」 マック・レナルズ ソ連のシモノフ大佐は、西欧の悪影響を受けているというプラハの視察へ。これは今となってはなかなか興味深い作品。設定としては、ソ連が順調に成功をおさめているが、その一方で周縁からは自由を求める動きが迫っているというもの。実際の歴史とのねじれぶりが複雑。歴史に詳しい人なら「双生児」のような揺らぎが楽しめるのかな?短篇自体の出来はなかなか。
「クエーカー砲」○ フレデリック・ポール&C・M・コーンブルース ジョン・クレイマーは出世の道を閉ざされた冴えない少尉。そんな彼に突然重要な任務が。「自由」と同じ<近未来物>だがこちらのテーマは戦争。軍隊組織に対する鋭い考察が良質なエンタテインメントとして鮮やかに提出されている。
「ユダの爆弾」 キット・リード 荒廃した未来社会。よくある設定だが、若者たちのノー・フューチャーな様子は悪くない。
「秒読み」 ジョン・ハース ジャック・ベルは宇宙飛行士。とある事務所へ行くが。何となく‘おいらは町の宇宙飛行士’(ボンゾ・ドッグ・バンド)を思い浮かべる。
「ビート星群」 フリッツ・ライバー ビート星群の無重力世界には、自由な“浮遊者”と呼ばれる人々が暮らしていた。この“浮遊者”のリーダー、ファッツ・ジョーダンが吟遊詩人風で独特の美学を持っているところが面白い。ライバーは気になる作家だなあ。
「シェイヨルという星」○ コードウェイナー・スミス 再読。いまさら○をつけるのもどうかと思うがやっぱり凄いのだから仕方がない。説明抜きに次々と起こるシェイヨルに降り立ってからの悪夢のような出来事は、この人らしい<痛み>に彩られた奇想で、他のどの作家も真似が出来ない。後半の展開もちょっと予想の斜め上をいってるし。終盤にスズダル元艦長が登場する(この本ではサズダルになってる)ので、ついでに『鼠と竜のゲーム』収録の「スズダル中佐の犯罪と栄光」も再読してまたのけぞる。ああ未読の『ノーストリリア』を読まなきゃ。
「アステロイズ 二一九四」 ジョン・ウィンダム 未来のニュー・カレドニアでリゾートを楽しむ主人公。そこである宇宙飛行士の話を聞く。まあまあかな。
「長い夜」 レイ・ラッセル 壊れた宇宙船でさまようアルゴーは魔法使いに助けを求める。この手はねえ・・・。