『夏期限定トロピカルパフェ事件』 米澤穂信

 ブックオフにあったのでシリーズ2作目からになってしまったが初めてこの人気作家の作品を読んだ。なるほど面白いですね。青春小説とミステリーのフォーマットを生かしながら、なかなか読後に余韻が残るものだ。

 小市民として日々を送ろうと決意した変な同志として行動を共にする、高校2年生の小鳩常悟郎と小佐内ゆき。夏休みに<小佐内スイーツセレクション・夏>と題した甘味処めぐりに付き合わされることになったけっして甘い物好きとはいえない小鳩だが・・・。

 基本的には高校生ミステリーなので事件のスケールは限定されるが、日常生活の中に本格的な謎解きや仕掛けを持ち込む手つきが鮮やか。第一章の絶品シャルロットをめぐる二人の攻防から、後半の事件とそのオチまで一気に読める。ライトノベルなつくりだからさくさく読めそうだとは思ったが、密度は高く満足度は大きい。「彼等の“小市民”というモットーは、自意識過剰であり、かつ思い上がりなんです。そこを書かないわけにはいきません」(野性時代7月号)と著者が語っているように、読後の後味が甘口とは程遠いところがまたお見事(まあむしろ青春物の王道といえるか)。
 シリーズの途中だけつまみ食いしないで1作目から読んで、今後最後までフォローしなきゃなあ(それが苦手なのだという根本的問題が)。

 さて上記の野性時代7月号には、なななんんとアンナ・カヴァンの短編「あざ」が載っています!!ってそれだから買ったわけなんだけど。短いがしっかりと恐ろしい話です。