『八月の光』 フォークナー

 今年の夏に読もうと決めていたのがこれ。貧困と差別の蔓延する昔のアメリカ南部(南北戦争のしばらく後くらい?)の濃密な空気の中、過去の因果が報い情念がどろどろ流れ出すような世界を描くこの小説はちょうどこの時期に合っている感じだ。
 ふらりとアラバマの村を訪れた風来坊ルーカス・バーチに妊娠させられてしまった娘リーナは、身重の体を抱えながらルーカスを探しにミシシッピのジェファーソンにやってくる。そこでルーカス(ブラウン)と闇酒を売っていたジョー・クリスマスには、みかけは白人と変わらないものの黒人の血が流れているという噂があった。ある日、そんなルーカスとジョーを住まわせていたジョアナ・バーデンの家から火が出る。
 こうした話に、個人的なトラブルから失格視されているハイタワー神父、リーナにほれてしまうバンチ、ジョーの過去を知るハインズ夫婦などなどがそれぞれの入り組んだ過去も踏まえて絡んでくる。ミステリ的に少しずつ登場人物の過去が明かされるような展開もあって、十分普通に面白く読める。ただ意識の流れというか登場人物の思考の描写は観念的で容易には理解しづらく(カポーティ『冷血』の犯罪者の内面描写は似ている感じあり)、基本的には重苦しい話であるので、気楽にすすめられる本とはいえないのも事実。それでも、例えばタイトルの‘光’はリーナの妊娠を象徴している(らしい)など
暗黒面の中にわずかな希望が描かれていることや人物配置がはまっていることもあって、著作の中でバランスの良い傑作として評価が高いのもなるほどな重厚で読み応えのある作品である。