The Who @横浜アリーナ

 ジョン・エントウィッスルが好き、といってThe Who本体がどうでもいいということはないわけで、行って参りましたよ来日公演。
 メジャーな曲を中心に、最新の‘Endress Wire’からの曲を織り交ぜ、時折組曲っぽいつなぎあり、といった構成。ここ5年くらいで本格的にThe Whoを聴き始めたにわかファンのさあのうずでも十二分に楽しめるわかりやすいコンサートだった。
 まず思ったのは、ピート・タウンゼントは実に良い曲を書く人なんだなということ。トレードマークとなっているループを多用したシンセが特に耳に残るけど、曲自体もノリの良いポップなロック、ファンク・ロック、プログレっぽい転調の曲、カントリー風の曲などなどかなり多様なものがある。しかもどれもが理屈抜きに楽しめるような親しみやすい曲が多いのだ。最新作ではアコースティック・ギターが良い音を出していて、ライブでも素晴らしかった。
 さて次に、熱狂的なファンの大歓声の中でそんなザ・フーが何故これまで日本で評価されていなかったのかが少し不思議になった(だってデビューから40年以上だよ)。その辺りについてだが、自分の体験としてはこんな感じ。ザ・フーの名前を知ったのはアルバム‘It's hard’の頃。友人とも同意見だったのだが、楽器を壊すパフォーマンスや音楽的評価の高さから強面の印象が強かったザ・フーが出した当時の最新作でhardの文字が入っているのだからめちゃくちゃハードな内容を期待するも、実際はピコピコした音が入っていてなんだか肩透かし。その後My generationやSubstituteなど初期のストレートなロックは結構いけることは分かるも、ロック・オペラは歌詞の比重が高くよくわからん。といった流れで、いつのまにか時が過ぎたのである。そんな中でも‘Live at Leeds’は人気があったのだが。評価が遅れたことには、紹介する人達の問題(ロック評論家に理解者が多くなかった)、歌詞の比重の大きさ、バンドのイメージの定まらなさ(ピート・タウンゼントは色んなことが出来すぎる)などが挙げられるが、様々な原因が少しずつ絡み合ったということなのだろう。それでも曲を支持するファンが多ければ、ヒットはするはずで、日本のロック・ファンは(伊藤計劃さんが書いておられる様な)その時代の<コード>(例えば「ロックにおけるロックっぽさ」というコード)にとらわれてザ・フーを聴いていたので、彼らの面白さが分からなかったのかもしれない。まあイケメンはロジャー・ダルトリーだけ、というルックス面の要素も無視できないが。
 音楽そのものは大変素晴らしかったが、コンサートのセットは伝説のバンドにしては素っ気なく、使われた映像もそれほど凝ったものではなかった。意外とショーマンシップへのこだわりが薄いような感じもあり、その辺も日本のような離れた国での評価が遅れた理由かもしれない。でも、超メジャーバンドにしてそんな飾らないところも逆に良かったりもする。また友人が言っていたのは、これまで特定の層にブームを巻き起こしたことがなかったので客層に特徴があまりなく割と幅広い人達が来ているようだ、ということ。色んな層から少しずつザ・フーに引き寄せられて集まってきた、のだとするとそれもなかなか良い光景だと言えるかもしれない。(さすがに女性は少なかったと思うけど)

※今更だが追加 ベースはピノ・パラディーノで、2002年ジョン・エントウィッスルがツアー中に亡くなってしまった際にピートから電話をもらって急遽三日で代役として準備した、というとんでもない目に合った人である。その時のリハーサルで聴いたことがない曲ばかりで、時間がないので‘お願いだからリスト順に曲をいれたCDを下さい’とピートに繰り返し頼んだら‘お前の言ってんのは“Fu***ng Tommy”ってタイトルなんだよ!! ’とキレられた(レコードコレクターズ2008年3月号)という話があって、無茶苦茶笑える。なんとこの凄腕ベーシスト、イギリス生まれなのにそれまで‘Tommy’を全く聴いたことがなかったのである。いやー四半世紀以上前に東洋人の中学生(オレ)でも買っていたのにね。