『デューン 砂の惑星』 フランク・ハーバート

 長尺のシリーズである。休みを利用してとりあえず「砂の惑星」?〜?を読んだ。
 舞台は全体が砂に覆われた死の惑星アラキス。しかしその一方で老人病に効くメランジという香料の宝庫でもある。また砂漠には時に四百メートル以上にもなるというシャイ・フルドといわれる危険な砂虫(サンドワーム)が跋扈している。そんな苛酷な環境の中メランジをめぐり対立するアトレイデ公爵家とハルコネン男爵家。そのアトレイデ家の後継で神秘的な能力を持つポウルを中心に権謀術数の物語が繰り広げられる。
 用語まで徹底的に創り込まれた異世界の構築度の高さで有名なシリーズだが、なるほど評判どおりでエキゾチズム溢れるアラキスの惑星とその文化にどっぷり浸かることができる。厳しい砂漠で生活するために特殊な戒律と風習を持つ民フレーメン、魔術的な技量を学校(魔法女子校?)で身につけた女性達ベネ・ゲセリット、訓練により最高の論理計算が可能となった官僚メンタート、皇帝の残忍な狂信的兵士サウダウカーなどなどの人物造形、環境に応じて開発された種々のハイテク・マシーン、さらに生き物だけではなく気象にまで目配りが効いているほど(コリオリの力による砂嵐!)。
 そうした創り込みの一方で、用語自体は過度に華美になりすぎず日常用語(簡単な英語)の部分も残っているので、凝った異世界ものが珍しくなくなった今では割と読みやすくなっているとも思う。また怖ろしい砂虫と香料に何らかの関係があるという設定に代表される生態学的な視点も現代に通じるもので、なかなか斬新である(砂漠の星を緑化していこうという話でもあるので、どっちかというとテラ・フォーミング的な方向性の話でもある)。
 さらにちゃんと波乱万丈ロマンスありの冒険活劇になっているところが最大の魅力だろう。SFファン大喜びのアイディアたっぷりの異星が舞台であり、用語も含め背景が物語にぐっと収束していくのでリーダビリティも十二分。その一方で、ポウルの不安定な予知能力の導入などのためか時々話が飛躍しそうになったりもして、きちんとまとまり過ぎていない破天荒さもあってSFファンまたたまらない。こういのが長編作家の資質というのかもなあ。
 砂漠を舞台にしているということで、用語や文化などにイスラム的な要素が強いが、4巻末の訳者と本人の対談(の一部)によるとハーバート著作には禅を基盤に含んでいることが多いそうだ。リップサーヴィスもあるかもしれないが、死生観などどこか東洋的なものが感じられるのはそのせいかもしれない。

 ちなみに、偶然最近ミステリチャンネルでTV版ジョン・ハリスン監督のデューンを観ることができた。まずは原作に忠実ではあったけど、ポウルの常人あらざる雰囲気は出ていなかったな。まあ難しいんだろうけどね。そういう意味では、例えば以前表紙に使われていた石ノ森章太郎イラストというのは非常に合っていたんじゃないかなと思った。で、もし映像化するなら抽象性が高いアニメの方がいいような気がしたんだけど、これはあくまでもアニメも映画もあまり詳しくない人間のアバウトな意見ということで。