『猫を抱いて象と泳ぐ』 小川洋子

 寡黙な少年は、使われなくなったバスで生活する<マスター>から教わったチェスに魅せられるようになる。やがて優れたチェス・プレイヤーに成長した少年だが盤の下にもぐりこまないと実力を発揮できないスタイルのため、チェス倶楽部の正式な会員になることを拒否される。それでも華麗な棋風を持つ少年はふとしたきっかけから自動チェス人形と共にリトル・アリョーヒンとして地下の倶楽部<海底チェス倶楽部>で人気を博すことになる。
 大きくなり過ぎて屋上から降りられなくなった象、甘い物好きの巨漢<マスター>、猫、儚げなアシスタントと鳩、倶楽部の名士<令嬢>などによって織り成される幻想的な物語である。リトル・アリョーヒンの運命は時に苛酷ではあるが、美しい彼のチェスが人々を動かしていくという幸福についての物語でもある。チェスへの深い愛情が切なく心に響く作品である。