『アッチェレランド』 チャールズ・ストロス

 新しい海外SFも日本SFに輪をかけて読んでいない(海外もので読んでいるのは基本古いものばかりだ)。でもチャールズ・ストロスSFマガジンの中編を読んだ記憶があるし、コミカルな部分は興味をひかれる存在だ。で、評判がよいので流行りものに弱い当ブログ主、まんまと購入させられたのだった。結果、非常に楽しめた。(タイトルはイタリア語accelerandoで、「どんどん加速する」という音楽用語のようだ。どんな未来のランドなんだろう、とタイトルを見た時に思ったのは内緒だ)
 世界中のあちこちでアイディアを授けては富をつくらせる恵与経済の実践者マックス。彼の天敵である元妻で徴税官のパメラは彼の滞納したという税を徴収しようとしてちょっかいを出してくる。話はこの二人の愛憎関係を軸に進み、人類は肉体を超え時代はシンギュラリティを突き抜け宇宙へとあらん限りのアイディアが盛り込まれながらタイトル通り「どんどん加速」していく。異種知性との遭遇がからんでくるあたりは、イギリス伝統か、クラークを思わせる。
 そんなぶっとんだ話なのだが、ノリはあくまで軽めで全体は壮大なジョークというところが本書の魅力(言葉遊びもいろいろあるみたいだし)。基本的なお話はマックスとパメラとその周囲のファミリードラマ。それぞれの時代背景は一定の間隔でゴシック体で親切に説明が入ってくるから、難しいコンピュータおたくのジャーゴンが分からなくてもらくらく読んでいける(あ、酒井昭伸氏の訳文が巧いのか!)。今の時代の最新の先端技術ネタの宇宙規模の馬鹿馬鹿しいホラ話が読みたい人にうってつけのエンターテインメントである。

 それにしても、こうした新しいSFを定期的に目を通さずにはなんだか落ち着かないし、読んで楽しめると、ああ自分はSFファンなのだなと変に安心してしまうところがある。ジャンル愛好者の(悲しい)性だろう。