『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』 フィッツジェラルド

 kazuouさんの‘奇妙な世界の片隅で’で紹介されたていたので薄いこともあって手に取った。フィッツジェラルドははじめて読んだけどいろいろな種類の短編があって楽しめた。短編も結構書いているようだ。
「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」 映画の方はみていない。生まれたとき老人でだんだん若返るという、まあそれだけといえばそれだけの話。普通の作家だったら叙情的な余韻を残すような話にするところだが、全体にドライさと苦さが漂うところが独特。
「レイモンドの謎」 街の郊外の殺人事件。果たして犯人は捕まるのか!ということで本格ミステリ。冒頭から謎解き役たちが登場して、事件を捜査するうちに、また出来事がおこってというような王道の展開がテンポよく進む。面白いけどまあまあぐらいかな、と思ったけど十三歳時の作品と知って愕然。
「モコモコの朝」 犬目線小説。平凡な擬人化を免れていて巧い。
「最後の美女」 恋多き南部の娘アイリー。主人公は友人として付き合っていくが。苦い余韻の残る青春小説、かな。
「ダンス・パーティの惨劇」 主人公は婚約者がいる青年チャーリーに惹かれてしまう。そんな中ダンス・パーティでチャーリーの婚約者マリーが射殺され、マリーと激しい口論をしていたという彼が逮捕されてしまう。これまたミステリ。パーティの華やかで甘い雰囲気やダンスの躍動感の描写などが実に印象的。舞台設定の南部というのも効いている。
「異邦人」 外遊を楽しむ魅力的な若い夫婦。華やかな生活はやがて二人の間に亀裂を生みはじめる。宴のあとの倦怠、みたいなものがこの作家の特徴なのだろうか。「最後の美女」もそうだが、圧倒的な喪失感が読後にずしりとくる。
「家具工房の外で」  家具工房に注文をするためにやってきた親子三人。注文に行った母親を車内で待つ間、父親は外の風景をみながら娘に即興でおとぎ話をはじめる。短いが技巧的な作品。これも巧いなあ。
 フィッツジェラルドのことはよく知らなかったが、華やかな生活と凋落と短い生涯の人であることを知り、カポーティに通じるものがあるなあと思った。というわけで、フィッツジェラルドにも興味が出てきたので、そのうちギャツビーやら何やらも読んでいこう。いつになるか分からんけど。(ちなみに英語の方はかなり難しいらしいね)