映画‘ミルク’

 アメリカで初めてゲイであることを公表して公職(市政執行委員、日本での市議に近い役職らしい)に就いたハーヴィー・ミルクの伝記映画。本年度アカデミー賞主演男優賞脚本賞を受賞した話題作。
 一口に差別に立ち向かうといっても、その道は平坦ではない。40歳にして人生を変えたいと思ったミルクは恋人スコットとともにニューヨークからサンフランシスコに移り住みカメラ店を営む。社交的な彼はゲイ・コミュニティの支持を受け、自分たちの権利を守るべく政治運動を開始する。しかし自分たちの存在をアピールするのが目的とは言っても、市政執行委員の選挙で三回連続落選。またしばしば脅迫を受ける。しかし、周囲の心配をよそに笑って受け流すミルク。スコットとの約束を破って四回目に立候補したため別れてしまうが、ようやく当選。ゲイのみならず広く弱者の救済を訴えた彼の存在感は増していくが、一方保守勢力は同性愛者の教師を解雇できるプロポジション6の成立をもくろむ。
 不屈の人といってよいだろう。決してスーパーマンではなく若くして政治を志したわけではない彼が命を懸けて戦ったのは、社会の抑圧を受けてきた思いがあったからだろう。そして、赤裸々といってもいいぐらい描かれているミルクのプライヴェート・ライフには常に悲劇がつきまとう。また政治的には時に強引な手法を使うところがあり、それもしっかり描かれていて深みがある。様々な面を持つミルクだが、その姿勢は前向きで人懐っこさと明るさがあり
、映画には光がある。そんなミルクと映画製作者の姿勢に素直に胸を打たれる素晴らしい作品だ。

映画‘ミルク’オフィシャルサイト→http://milk-movie.jp/main.html