「セカイ、蛮族、ぼく。」 伊藤計劃

 伊藤計劃氏の逝去は単なるいちファンながら辛く、追悼特集のSFマガジンの感想もなかなか書けずにいた。フランケンシュタインの技術が全欧に普及した世界を描く未完の第四長編の冒頭部分、遺稿となってしまった「屍者の帝国」があまりに期待させる出来だっただけになおさらだった。
 そんな折、佐藤亜紀氏の日記で伊藤計劃氏が2007年に同人誌に発表していた短編のことを知った。公開して下さったrandam_butterさん(で、いいのかな)にはもう感謝、感謝である。内容は『虐殺器官』など商業誌で読める諸作でどちらかというとフレイヴァー的に垣間見えたユーモアが前面に立った作品で、早くから作風が確立していることが分かる。短いが十二分に楽しい仕上がりで、ぜひご一読あれ。
 伊藤計劃氏についてはまずHPから読み始めたのだが、その映画批評の素晴らしさに驚かされた。当ブログ主は大した映画視聴歴もないのだが、面白い批評にはそんな経験は無用なのだ。着眼点がユニークで論理展開に説得力があり、文章はシャレが利いている。あまりに面白いので評価の高くない映画まで観て確かめようか、と思わせるくらいだ。書いているうちに思い出した。今でも読めるんだった。読むことが大事なんだ、と今更ながら気づいた。