『七回死んだ男』 西澤保彦

 読む本が突然無くなると動揺をして我を失い発作まで起こす活字中毒者は後を絶たないようだが、その境地にはいまだ達していないものの、先日職場に読みかけの本を置き忘れて帰宅途中に読む本が無くなって困った(長距離通勤者なので)。幸いにも本屋が近くにあったので、これまで気になっていたが手をつけていなかった本書を購入した。SFミステリらしいことぐらいしか知らなかったが、おかげで余計なことを考えずに楽しめた。        
 カラフルなトレーナーにちゃんちゃんこというケッタイな格好で行われる親戚一同が揃った新年会で、中心人物たる祖父が頭から血を流して死んでいた。殺人事件!主人公の高校生、久太郎はなんとかしようと思う。実は久太郎、時々ある一日を九回も繰り返すことになるという特異体質で、なんと事件の日にその体質が出てしまったのだ。祖父を救うべく、九回のサイクルでいろいろ試みる久太郎は。
 SFの中で
SFミステリはあんまり読んでいなくて、なんとなく読む前から殺人事件+SF設定というだけで、なんか頭が混乱しそうな気がするし(ただのミステリでも混乱するのに!)、両方の設定のバランスを取るのが難しいんじゃないかと思ってしまうからなのだが、本書は周到に出来ていてわかりやすい。ループする時間を探偵役である久太郎が特権的に様々なやり直しを試みる、というのはミステリで名探偵が真相を明らかにするためにシミュレーションを行うパターンと同じで、基本的にミステリであるわけで、SF的設定の使い方がうまいと思った。ともかく読んでいて、徐々に謎が明かされて後半は畳みかけるようにどんでん返しが決まっていくので気分が良い。コミカルでデフォルメされたキャラクターが多いのは非日常的な設定が使われているので雰囲気にあっているが、その一方で久太郎が高校生なのに年寄りくさいのは特異体質のせいだというのが変な説得力があっておかしい。平凡な高校生が事件を解決しようとして火に油をそそいだりする様子もまた楽しい、コメディタッチのSFミステリである。