イチローの時代

 9年連続200本安打達成のイチローに対する賛辞は止むことはない中で、さらに礼賛の記事を書いても目立たないだろうが、デビュー当時から(ほとんどテレビ上だが)イチローを眺めていた者として感想を。
 イチローは常に数字がつきまとうプレイヤーである。デビュー当初からの彼の「打率より安打数」といった価値観も数字にまつわるものだし、その価値観を超人的な記録達成能力によって周囲に認めさせたのも、圧倒的な数字による説得力であろう。時にその数字以外の価値を認めないかのようにも誤解される(WBCも出ているからそうではないのだろう)ストイックな姿勢に反発を覚える人もいるだろう。また一発で試合を決めるようなパワーヒッターではないので、大リーグでの評価がどうだとかいう意見も消えることがない。opsあたりが持ち出され彼の物足りなさを揶揄されてしまうことがあるのも、数字を残してきた人物の宿命なのかもしれない。
 しかし彼の凄さはそういった記録から生み出されたさらに別の部分にもあることを、子供の頃からの短距離打者好きとして(何せNY在住時小学1年にして一番の贔屓がメッツのフェリックス・ミヤーンで、横浜大洋に入団した時に狂喜したくらいである)言っておきたい。そんな自分からみて、イチローのデビュー前は日本プロ野球でもホームランバッターの方がやはり人気があった印象がある。首位打者が軽視されていたというわけでもないが、安打製造機タイプの選手が熱狂的な支持を受けることはなかった。それを一変させたのがイチローなのだ(しかも安打数という新たな見方を納得させて。こんなスポーツ選手はまれだろう)。さらに時代は移り、日本人選手の大リーグ挑戦が当たり前となり、否が応でも大リーグのパワーとの差をファンでも意識せざるを得なくなる中で、さらにイチローが輝く存在となる。日本人選手(野手、といった方がいいか)の理想形のような位置づけになったのだ。今後数十年したらイチローの評価がどうなるかと考えるのは楽しいが、何はともあれ彼の圧倒的な記録の数々と共にこの時代のプロ野球ファンの評価基準を大きく変えた特異な人物として記されることになるだろうと思う。