『倉橋由美子の怪奇掌篇』

 古本市で購入したんだっけかなあ。夏用のホラーとして準備したのだが、読了したらもうすっかり秋でした。倉橋由美子ははじめて。タイトル通りまあ怪奇趣味なんだけど生々しさよりもシュールでコミカルでエロティックでひんやりとクールなタッチが特徴で不思議な味わいがある。どれも短くて数が多いので印象の強いものだけ。

「首の飛ぶ女」 父の友人である異常なK氏が戦後大陸から連れ帰った美少女には秘密が。飛頭蛮、って知らなかった。会話のちょっとしたところが伏線になって巧くオチてる。
「事故」 うっかり長風呂に入っていた勉君。肉がすっかり融けて骸骨になってしまった。シュール路線。なぜか抒情的だったりもする。
「獣の夢」 故郷へ帰る夢は非常に奇妙なものだった。鴃、って漢字も知らなかった。で、そんな話で、匂います。だけど生々しくはないんだよこれが。
アポロンの首」 大学の構内に生首が。もちろん主人公が拾って帰る、いわゆる(?)“生首もの”。栞と違って、水栽培方式をとっている。「生首事件」のどことなくユーモラスな感じではなく、結構不気味な美しさが感じられる話。
「発狂」 ゼウスが目を覚ますと大地のあちこちがさけて気味の悪い汁が噴き出していた。なんというか、変な神話もの。これも独特だなあ。
「オーグル国渡航記」 <カニバー旅行記>の検閲された幻の第五篇の中身とは。まあカニバー旅行記ですからね、内容は押して知るべしだけどグロテスクな題材を扱っても嫌な後味が残らない非現実感があるのがこの人ならでは。そういう意味では残酷童話というのは実に特質に合っている。
「鬼女の面」 お面ホラー。『銀の仮面』とかね。倒錯的な題材も美味しく料理。
「聖家族」 お父さんとお母さんは宇宙人かも。ディックの「父さんもどき」を思い浮かべる。でもちょっと違う話になっていて、いいよこれも。
カニバリスト夫妻」 これもタイトル通りのネタ。TV業界ものでもある。
「イフリートの復讐」 アラビアンナイトのエピソードを現代的に手際よくアレンジ。

 おどろおどろしい風味や生理的嫌悪感を催すような執拗な描写は乏しく、その手がお好きな人には物足りないかもしれないが、ライトな方がいいけどホラーが好きというような人や変だったりユーモアがあったりした方が好きという人には楽しめそう。様々なジャンルの古典のパロディや引用も見事で引出しの多さを感じさせる。うーんデキる。