SFマガジン11月号 J・G・バラード追悼特集号

 最初SFマガジンだと気づかなかった。駅構内の書店で入手したのだが、J・G・バラードのポートレイトが表紙で、しかもモノクロで地味だったので分からなかったのである(確認してみたらクラーク追悼特集?はカラーの顔写真だった)。未訳短編、評論、エッセイと揃っているが、巻末の(改訂版)著作リストだけでも購入の価値ありと思う。元々SFマガジン1997年3月号でも(その時刊行されていた著作の分まで)ついているのだが、自作についてのコメントがまたコンパクトに自作の読みポイントを紹介していて親切(今号の牧真司氏による読書ガイドでの「やさしいバラード」の意味は、こんなところにも表れている)。短編以外では、人間バラードとの交流という視点から書かれたムアコックと著作そのものとの対峙という視点から書かれた伊藤典夫氏のエッセイに長い年月の重みが感じられ心を動かされるものがあった。それから、あらためて日本との縁が深い作家なのだなあとも感じられた。で、短編の感想を以下に。※追記(10/3) 読み直したら「ZODIAC2000」の感想が自分でもちょっと意図していない内容になっていることに気づいたので、とりあえず削除しました。バラードについて書くのは難しいなあ。

「太陽からの知らせ」 <遁走>という意識消失状態を伴う謎の病気が蔓延している終末的な未来の話。宇宙飛行士や軽飛行機、病院や医師、強迫観念にとらわれた男、意志の強い女、ハイウェイ、水の無いプールなどなど実にバラードらしい初訳短編。1980年作。全体の疾走感が素晴らしい。
メイ・ウエストの乳房縮小手術」 実在のハリウッド女優をネタにした手術記録風の作品。『残虐行為展覧会』にぴったりの濃縮小説で90年の新版には載っているが、日本版には載っていないとのこと(本特集解説より)。小品ながら肉体改変の持つ意味に肉迫しようとしていて、そうしたアプローチが出来る作家は今後現れるのだろうか。
「コーラルDの雲の彫刻師」 随分昔に読んだ。思っていたより短いな。昔は雲で彫刻を作るといったイメージだけで感激したが、再読すると自我の強い女性に屈服する男性たちといったいかにもな展開を示していることに気づく。

 既訳でも(しかも手持ちでも)まだまだ未読の作品があるので読まなきゃなあ。