SFマガジン12月号 秋のファンタジイ特集

 いつもはちゃんと読んでいないSFマガジン短編、特にファンタジイものは・・・だが、ちょっと気が向いて、特集の四編を読んでみた。
「最後の粉挽き職人の物語」イアン・R・マクラウド 風と共に暮らしてきた粉挽き風車職人のネイサン。穏やかな日々は移りゆく時代とともに失われようとしていた。解説によるとヴィクトリア時代を歴史改変物のシリーズの一編とのこと。設定が素晴らしく、風の描写が生き生きとしていて、ロマンスなんかもあって、書きようによっては大感動作に仕上がってもよさそうなんだけど、どちらかというと現実的というか良くも悪くも浮つかない渋い苦味の入った作品になっている。『夏の涯ての物語』でもそんな感じの話が多く、この作家の特徴なのかも。そこを地味ととるか玄人好みととるかで評価が変わりそう。
「アボラ山の歌」シオドラ・ゴス 異世界を舞台にした皇妃のお気に入りの賢い侍女の物語と現代の女子大生の物語が並行して語られ、両者をつなぐのがコールリッジ、というような話。コールリッジのことはほとんど知らないのだが、メタフィクショナルな再読を要する凝った作品。とにかくコールリッジ読んでみないとな。解説でザナドゥという言葉が、コールリッジにより桃源郷として用いられるようになったと知った。嗚呼オリヴィア・ニュートン・ジョン&ELO!<世代限定ネタ 
「図書館と七人の司書」エレン・クレイギス 新しい洗練されたシステムを持つ図書館が開館されると、古い図書館の司書たちはひっそりとその中で暮らし始める。そんなある日、図書返却口に赤ちゃんが。本好きの皆さん必読の図書館ファンタジイ。四編の中ではいわゆるファンタジイのイメージに一番近いほのぼのとした作品だが、ここで描かれる世界は本好きのユートピアかそれとも・・・。
「王国への旅」M・リッカート コーヒー・ショップに飾られた≪王国への旅≫という連作の絵。その下にある“画家の解説”と題された黒いバインダーには不思議な物語が書かれていた。これも小説内小説のある凝った作品だが、メタフィクショナルというよりは現代的な不気味な話になっている。
それぞれの作品のテイストが違い出来もよく、なかなかいい特集なのでは。