『フロム・ヘル』 アラン・ムーア作 エディ・キャンベル画

 読みましたよ、取り合えず本編だけだけど(<付録>はまだ)。いやこれは名作。スケールのバカでかい強力な妄想力から生まれたとんでもない作品。切り裂きジャックの事件については全くといっていいほど知識がなかったし、異常な分量を誇る<付録>もちらっとしかみていないので、細部まではほとんど追えていないが、19世紀末を舞台に凶悪な連続殺人事件が起こった背景を、(ほとんどが実在らしい)様々な登場人物を配して、細部まで用意周到なホラ話として構築するアラン・ムーアの偏執的な情熱が素晴らしい。しかもそれがさらに大きな世界(一種の妄念か)へと拡がっていくのだから無敵。スロー・モーションのように同じような場面が丹念に繰り返されるという日本のマンガとは違う手法も効果を高めている。実際のロンドンや事件を知っていると何倍も楽しめるだろう。画はモノクロなので全体のトーンは静かだが、残虐な場面が多く含まれ、そういったものが苦手な人にはさすがに向かないかもしれないし、日本のマンガとは違うタッチになじみにくい人もいるだろうし、登場人物もエラく多い大作だが、抜群に面白いのでいろんな人におススメ。それにしても唖然とするぐらい細かく執拗に注釈を加えていくアラン・ムーアの全て自分で説明をしないと気がすまないような気質はいったいどこからくるのだろう。

 あーっとそれから読むときのBGMはRolling Stonesの‘MIdnight Rambler’がいいのではないかと。