『放浪惑星』 フリッツ・ライバー

 さて新年一発目は年末から読んでいた、これ。思っていたより読みにくく、正直走り読みしてしまった。
 突然月の近くに謎の惑星<放浪者>が出現。その星により月が破壊され、地球では地震や高潮が起こり世界は大混乱。そして<放浪者>の宇宙人にアブダクションされた地球人が見たものとは。
 上はかなり端折って書いてます。見返し部分の紹介はさすがにネタばらし気味と思ったのでそのままは引いてこなかったものの、それでもそのネタばらしが必ずしも本書のポイントじゃないところがなかなかユニークかつ厄介なところ。まずは大きく分けて二つの話がある。世界各地で起こるパニックSFとしての話(だから登場人物が非常に多い。さらに月にいる宇宙飛行士の話も加わる)、そして惑星<放浪者>の宇宙人をめぐる話。この二つの話に、詩など文学的な引用や蘊蓄、さらにSFやら実在の事件やら音楽やらの蘊蓄が所々に織り込まれる。さらには見事な幻想的イメージが所々に出てくる一方で、幻想SFにはとどまらないSFアイディアが重要な部分を占めたりしている。もちろん多くの登場人物たちのエピソードもきっちり描かれる。
 登場人物多いだけで既に頭がゴチャゴチャしてしまう自分の端的な感想としては、凄いけど盛り込み過ぎ。またSFアイディア面では、冒頭の写真フィルムで月の異変を察知するシーンなどは(SFの宿命ながら)さすがに古い感じだし、ハードSF的な評価では基本アイディアも疑問な部分が多そうなところも気になる(こんな惑星が来たらもっともっと地球が大変なことになるんじゃないかなあ)。そんなわけで、単なる一読者としては大まかな筋を追うのが手一杯だった。ただ、幻想的で美しいイメージはさすが。また引用も該博な知識を持つ方々には魅力となるのだろうとも思われる。そういった意味で単なる失敗作ということでもなく、評価の難しい作品だ。1965年ヒューゴー賞に輝いたということだし、少なくともライバーの作家としての凄さは感じるんだけど。
 ちなみに気になって1965年のヒューゴー賞ノミネート作を見てみた。「テレパシスト」ブラナー、「デイヴィー」パングボーン、The Planet Buyer(ノーストリリア前半部)コードウェイナー・スミス。おおオレにしちゃ珍しく全部読んでる。中ではもちろんノーストリリアが最高なのだが、前半部のみで評価困難だとしたらまあ順当には宗教色が強いけどは「デイヴィー」の方が賞にふさわしい気がするなあ。でも「テレパシスト」は結構いいんだよね。