『雨の朝 パリに死す』 フィッツジェラルド

 長崎に行ったときに購入した短篇集。
 好評で長篇との関連もあるもの、というように解説に書いてあるので日本独自編集なのだろうか。

「カットグラスの鉢」 妻の浮気からギクシャクした関係になってしまった裕福な夫婦。溝を埋められないまま時は流れて。徐々に没落していく悲しみと孤独が描かれる。ガラスの硬質なイメージを好む部分とか華やかな世界への強烈な指向とかやっぱりカポーティと共通する印象がある。
「冬の夢」 ゴルフ場のキャディを勤めながら大きな成功を夢見る少年。やがて成功を収める彼だが、その頃に出会った忘れえぬ女性がいた。失われた愛と時の流れという話で、基本的には「カットグラス」と同じ話。恋い焦がれ結婚した妻との関係にずっと苦しむことになるフィッツジェラルド自身と印象が重なるようなこういった話はイメージ通りで、好まれるのだろう。ただ蕩尽を絵に描いたような世界にはかなりナルシスティックなところも感じられ、好き嫌いは分かれる気がする。
「罪の赦し」 信心深い田舎町。父親に強く言われて告解場にやってきた少年は、そこで嘘をついてしまう。キリスト教徒ではないので、その重要性をはかりかねるがこういったことはおそらく重大な問題なのだろう。ところが神父の対応は・・・となる話。自伝的な要素が強いらしい。なかなか後を引く変な作品。
「金持ちの青年」 裕福で魅力ある青年は生真面目な令嬢との婚約をするが酒席での失敗がもとで破局してしまう。やがて時は流れ・・・ってわけでまた同じ話だ!ちょっとテーマが偏り過ぎだなあ。
「雨の朝 パリに死す」 パリにいる義理の姉夫婦のもとに預けている娘と久しぶりに会う主人公。自分の生活を改め、娘を引き取る決意をしたのだが。取り返しのつかない過去と男女という話でこれまた同じ、ようではありながらこれは傑作。子どもに対する思いというころとで切実さがあるし、享楽的な生活を送ってきた主人公に対して質素な暮らしをしてきた義姉夫婦の複雑な思いが巧い具合に重みを加えている。

 金銭的なものを追い求めたために乱作気味で、短篇には駄作も多いらしい。が、「ベンジャミン・バトン」のような奇妙な味の話もあるのだからもう少し違った傾向の作品も欲しかった。にいえばやはりタイトル作がNo.1だろう。作家フィッツジェラルドに興味を持つ人には少年時代を描いた「罪の赦し」も重要だろう。