映画‘大統領の理髪師’(TV視聴)

 一種の大統領ものといえる『裁くのは誰か?』を読んだ合間に観たのがこれ。ソン・ガンホが割と好きなので以前から観たかったのだが、うーん期待ほどではなかったなあ。

 大統領に権力が集まり不正選挙など日常的だった1960〜70年代の韓国。大統領のおひざ元に暮らす文字の読めない平凡な理髪師は周囲の言いなりで不正選挙に力を貸す。純朴で従順な彼はやがて政府の信頼を得て、大統領の理髪師になる。そんな中、スパイが罹患した腸炎が蔓延し、下痢症状を起こした人々がスパイの仲間として次々に当局に逮捕されてしまう。主人公の息子も下痢になってしまい・・・。

 扱い方によってはかなりへヴィな内容をとぼけた一般市民の主人公に据えることによって、たんたんと描くことに成功しているところはいいと思う。ただ基本は諷刺なんだと思うけど、ところどころ表現をぼやかしたような(例えば拷問のシーンが時にコミカルになる理由がよく分からない)部分もみられ、一貫性を欠いているように思われた。大統領と主人公の関係もどうも焦点が定まっていない印象がある(要はぬるく感じられるということ)。ドタバタでもないし、諷刺でもないといったような中途半端さが感じられてならない。
 ただ、ソン・ガンホはやっぱり存在感がある。どこにでもいそうな韓国の人間味あふれるオヤジを好演している。新大統領とのエピソードは笑った。あと理髪師を手伝うアメリカへ憧れまくっている陽気な青年がベトナム戦争で仲間ハズレにされ、無口になって戻ってくるエピソードなどさりげないところに良さはある。
 全体に矛盾があっても天然なのか計算なのかよく分からないところが観られ、何だが落ち着かない。そういうところの緩さが好きな人もいるのかなあ。ところどころにイイ部分もあるので、うーん何とも惜しい感じの映画。