『猫とともに去りぬ』ロダーリ

イタリアの作家による短編集。いわゆる異色作家系といっていい内容だが、皮肉やブラックジョークっぽさはあまり感じない(裏表紙に‘現代社会への痛烈なアイロニー’ってあるけどねえ)。一方で人は簡単に猫や魚になり、バイクと結婚しようとし、生まれたばかりの赤ん坊がいきなり薀蓄を語り、人形は勝手なことをするなど話はぶっ飛んでいて、いわば<可愛らしい奇想>といった趣。以下印象に残ったもの。
「猫とともに去りぬ」リタイヤした駅長は家族から疎まれたのをきっかけに猫の世界へ。どうってことない話なんだけどのんびりした猫の世界が楽しい。
「チヴィタヴェッキアのひ郵便配達人」力持ちの郵便配達人が重量挙げコンテストに誘われる。これも特別なことは起こらないんだけど民話風でいい感じなんだよな。
「ピアノ・ビルと消えたかかし」ピアノ弾きが西部劇のガンマンよろしくある町にやってくる話。文句なく楽しい。
「箱入りの世界」捨てた空き瓶や空き缶がどんどん大きくなってしまう。なんだかイアン・ワトソンのようである。
「カルちゃん、カルロ、カルちゃん あるいは 赤ん坊の悪い癖を矯正するには」生まれたばかりの赤ん坊がテレパシーを使って世慣れた話をどんどんしてくる。その後実は(ネタばれ失礼)能力を失っちゃうんだけどぜんぜん悲壮感とかないんだよね。子どもは子どもらしくしているのが幸せ、みたいな説教くさい話ととれなくもないけどどうなの?
ピサの斜塔をめぐるおかしな出来事」宇宙人がピサの斜塔を懸賞の当選品としてもらいにくる話。星新一だ、これ。でもオチがこうはならないだろうな。

いろいろ暗いニュースが多い日々の中、ちょっと息抜きをさせてくれるような短編集だった。