『ダールグレン』(1)(2) サミュエル・R・ディレイニー

 とりあえず読了。
 なんらかの災厄で崩壊した世界、記憶障害のある主人公(キッドとよばれている)が時間の流れのゆがんだ町を徘徊する、という感じの話。
 伝説的な作品でまさかの翻訳刊行。1975年刊行当時にはベストセラーになる一方で賛否両論を巻き起こし、起伏の少ない展開に「どこまで読んだ?」が合言葉になったというんで恐る恐る読み始めたが、基本的に主人公キッドで視点が固定化されているので(1)などは割と読みやすい。と、思って気を許していたら、さらに主人公が増え、実験的な文体も登場し(2)になると混迷の度合いが増しなかなか読み進みづらくなってくる。事前にいわれていたほど展開として起伏がない、とは感じなかったけど、分かりやすいカタルシスが待っている小説ではないので人を選ぶとは思う。
 というわけでまだまだ内容を消化しきれいていないのだが、とにかくこれまで語られていないものや語りえぬものを表現していこうとする意思と情熱が伝わってくるのは間違いない。そういう意味ではオルタナティブを求心力としてきたアメリカならではの小説と感じられる。その実験精神は1960年代の精神なのかなあという気もする。背景に人種、ジェンダー、文学といったテーマがあるのが感じられ、スケールの大きい小説という気がした。
 またアフロフューチャリズムに大きな影響を与えているというディレイニーであるが、音楽の描写などには分かりやすいブラックミュージック系のセンスが出ているというわけでもなくその辺も謎が多い。ホントに一筋縄ではいかない世界だ(苦笑)。

※追記 以上のようなことを書いていたら山形さんのキビシー評が!うーむナルシスティックかあ・・・なるほどそういった面はあるかなあ。アフロフューチャリズム的なものを考える上では興味深い部分が多いような気がするんだけど。