『三国志』 横山光輝

 今更ながら三国志初読。まず名高く分かりやすそうなこれにしてみた。
 さすが名作、抜群に面白い。以下雑感。
 ○全体の概観
 ・なかなか孔明が出てこない(30巻中11巻から)。
 ・やはり見せ場はその孔明が出てきてから名高い英雄たちが勇猛果敢に戦いを繰り広げる11〜21巻。
 ・関羽曹操が死ぬ21巻を境に全体に話は陰鬱な様相を呈する。
 ・終盤は物語を支えられるのが孔明だけとなり(司馬懿は柱になるには手堅い引き立て役過ぎる)、その孔明が老いからの焦りも出るようになり辛い流れとなる。
 ・劉禅の笑顔がオチとはあまりにも残酷。
 ・謎の妖術師とか預言者が出てくる19巻楽しい。
 ・捕まっては解放される孟獲のエピソードは単調だが、それを補って余りある南蛮部隊のユニークさで24巻は暗い終盤の中で異彩を放つ楽しさ。象に乗って猛獣を操る木鹿王がカッコよくてツボ過ぎる(すぐズルイ孔明にやられちゃうけど)。
 ○細部
 ・4巻で国のためにハニートラップを仕掛ける貂蝉の行動はどこか作り物めいている。架空の人物と分かってしまう。
 ・10巻で迷信を頑なに否定し、呪われて死にながらも冷静さを失わず後継者を指名する孫策が素敵。若くしての死は悲劇的ながら現代的な思考の持ち主だったのでは。
 ○好きな珍場面
 ・15巻P183 呉の優秀な家臣魯粛は蜀に交渉に行く度に孔明に丸め込まれてしまう。それに呆れた上司である周瑜の言葉「お主は他のことはよくできても外交官の才能は零だのう」。失敗即打ち首みたいなエピソードが続く中なんとものんびりした空気に笑ってしまう。
 ・18巻P109 漢中で孤立する敵の名将馬超孔明の命を受け寝返らせようと説得する李恢。痛いところをつかれた馬超「むむむ」李恢「なにがむむむだ!(以下略)」。緊張感あふれる場面なので妙におかしかった(自分だけかもしれない)。

 解説陣も多彩で非常に充実している。13巻西遊記ファンタジー小説を書いていたタケカワユキヒデとか22巻魔術師としての孔明とはいかにもらしい荒俣宏はじめ、各地の関帝廟を追うエッセイや英雄の群像から当時の食生活まで幅広い観点からこの時代を浮き彫りにしてくれる充実したものばかりである。