『アンドロギュノスの裔 渡辺温全集』 渡辺温

 裔(ちすじ)と読むのか。1902年生まれ、日本探偵小説界黎明期に短い生涯ながら鮮烈な足跡を残した渡辺温の全集。小説、掌篇、脚本、翻訳・翻案、映画関係の随筆ほかという項目で並んでいるが、翻訳でもその内容は創作と共通し、随筆にもフィクショナルな要素が加わっており、全体を通じて渡辺温らしさというのがはっきり感じ取れる。それは解説にも書かれている「影」の物語ということなのだろう。似たような人物、人が入れ替わるという話が多い。また映画に対する造詣が深いようで、映像的に強いイメージを残す作品も多い。映画関係の話は自分には詳しくないのだが、おそらく歴史的にも重要な記録なのだろう。どれも20代とは思えない完成度の高さで古きよき時代の香りもあってちょっとした宝物のような一冊である。