『小説のストラテジー』 佐藤亜紀

 早稲田大学の講義に使用された覚書に基づく小説論ということだが、大変示唆に富みこれまで読んだ小説論の中でも群を抜いて面白い一冊だ。
 書き手による記述が物理的に読み手にどういう効果を及ぼすのか、具体的かつ明晰に解き明かされ、小説の深い味わい方の心得を与えてくれる。また、書き手についての出自などの情報や読み手のイデオロギーによって作品を矮小された解釈へ落とし込みがちである、という戒めも重要な指摘だろう。あまり古典に親しんでいない当方にとっては、登場する各種古典への言及も今後の読書への手掛かりとなりそうだ。
 キケローの弾劾についての民衆の反応や回想録に関する論考などは歴史や社会といった視点からも非常に参考になった。これはいい本
だ。