『パニックの手』 ジョナサン・キャロル

 米国版の‘The Panic Hand’の半分とのこと(残りは『黒いカクテル』として刊行予定)。創元の紹介によると、ダーク・ファンタジイというのはこの人からきているらしい。
どれもレベルが高い傑作短編集。買いである。集中一番長い風変わりなタイトルの中篇「おやおや町」は初老にさしかかろうかという文学部の先生が家政婦に非日常的な世界に呼びこまれてしまう話で、ブラックユーモアというか意地の悪いメンタルクライシスものとも言えそう。あれよあれよという間に意外なラストが待ち受ける。他「フィドルヘッド氏」「友の最良の人間」「パニックの手」なども苦い風味も効いてる良質のホラー/ファンタジー。一方解説の津原泰水氏指摘の「何も起きない」キャロルといわれる、「手を振るとき」「きみを四分の一過ぎて」「去ることを学んで」は短いが強い印象を残す好編。かえってキャロルの個性が感じられる。