『ぼくがカンガルーに出会ったころ』 浅倉久志

  SF翻訳界の大御所の初エッセイ集である。訳文をどうとか評価できる能力はないので、あくまでも印象だけだが浅倉先生というとなんとなく‘軽妙洒脱’という言葉が思い浮かぶ。ヘヴィな傑作や感動の名作も数々紹介されているが、決して物々しく押し付けがましい感じではなく、あくまでも軽やかで洒落ている印象なのだ。
で、本について言えば、まず可愛らしい表紙が良い。もちろん(月並みな表現になるが)SFへの愛情あふれる文章がファンの心に響く。ジャック・ヴァンスに頁数が割かれているのも嬉しい。ただ発見があったのはむしろSF以外についてのもので、不況の時代とユーモア小説の関係だとか、ポーリン・ケイルの話だとか。映画には疎いのでケイルのことは初めて知ったが、評論を読んでみたいと思った。ところどころ入る替え歌やパロディも素敵。あと小説(訳)のおまけもついている。