『サンディエゴ・ライトフット・スー』 トム・リーミイ

  まあ伝説の作品といって良いと思う(作者は42才の若さでタイプライターの前で死亡)。
いつもながらのハーラン・エリスンの濃ゆい序文はとりあえず置いといて、決して派手な作風ではない。作品のヴァラエティはそれなりにあるもののアイディアや話の骨格はシンプル。一般社会からはみ出したものへの共感を背景として、巧みな空気感の描出や美しくもおぞましいイメージやハリウッドへの憧憬などが一体となり独特の作品が作り上げられている。トウィラ・ギルブレース、ジョン・リー・ピーコックなどなど主人公たちの名前の響きも味わいを深める。
 ストレートなSFもあるが、ホラー・ファンタジー系のほうが印象深い。転校生ホラー「トウィラ」、美しいものには秘密がある「ハリウッドの看板の下で」、切ない年の差恋愛ファンタジーのタイトル作、ハードボイルドなのにリリカルな「デトワイラー・ボーイ」あたりがベストか。作中作の使い方がうまい(エリスンお気に入りの)「ウィンドレヴン館の女主人」、待ち人は**な「ビリー・スターを待ちながら」といった小品も良い。
 ただ少々バランスの悪い作品もあり、そのまま再刊するのもちょっと難しい感じ。が、再構成するにも作品自体が少ない訳で、このまま本書は伝説となってしまうかも・・・。