『破局』 ダフネ・デュ・モーリア

 42年ぶりの復刊とは意外なほどすんなり読める傑作ばかり。

「アリバイ」 サイコ・キラーもの。主人公の心理描写と(物語中の)出来事の間の絶妙なずれがポイント。コワい。
「青いレンズ」 アイディアとしては昔の中間誌の日本SFみたい。ただドタバタにはならず奇怪なイメージが目立つ。
「美少年」 ヴェネツィアに取り憑かれた男は、そこの美少年に魅せられ・・・。土地の魅惑と不安、人間の暗い欲望が一体なった傑作。舞台は他の地では成り立たない気がする。
「皇女」 一種の宮廷ファンタジーだろうか。南ヨーロッパの夢のような国<ロンダ>。永遠の若さを持つ大公の美しい妹をめぐり、平和だった国に革命の危機が訪れる。長編のような変化に富んだ話で楽しめる。革命に取り憑かれた者の話ともいえる。
「荒れ野」 これまた幻想風味のある話。言葉が話せない少年が、両親と共に<荒れ野>と呼ばれる盗賊(?)の居る地方へ転居する。<荒れ野>と呼ばれる集団の生活がユニーク。
「あおがい」 ややユーモアのある、何をやってもうまくいかない孤独な女の話。「アリバイ」同様、主人公の心理描写と出来事のずれが面白い。結局はこれもコワい話なのだ。

 人間心理に対するヒリヒリするような洞察力が特徴。表現も多彩で単調になることがないので一気に読める。