『楽園の泉』 アーサー・C・クラーク

 いまさらシリーズ。
 科学的アイディアを基盤に、宇宙的スケールで人類を描いていくというSFのスタンダードを築いたクラークの正攻法な傑作。たしかにここに出てくる人類は、実際の人類より合理的に問題解決にあたっており、やや理想主義に過ぎるという感じはする。ただそれはクラークの科学的必然を追う創作方法に当然ついてまわるもののように思われるし、何よりも本作にはSFのスタンダードを作り上げてきた作者のクリエイターとしてのスケールの大きさがひしひしと感じられる。例えば豊富な科学知識、例えばそれを物語に結びつける手つきの鮮やかさ(軌道エレベーターづくりのプロジェクトを追うという地味な題材ながら後半はスリリングに展開!)、例えばアイディアから生まれる数々のシーンの美しさ(電離層を描いたシーンの見事さ!)等々。いやあ脱帽です。

※クラーク逝去後にあらためてネットの感想を見ると(あくまで個人的印象だが)『楽園の泉』の人気が非常に高い。これは当時クラークがこの作品で断筆をするといっていたことが無縁ではないように思われる。この作品が最後になるぞ、といわれながらSFマガジンの連載を読んだ人が多いに違いない。しかも作品は余裕たっぷりで、まだまだ書いていけそうなのに的残念感がぷんぷん漂いながらの東洋的で静かなラスト。まさにクラークらしい美しさを持った<最後の長編>にふさわしかったのだ。(ホントは最後じゃなかったけどね) 
2008年 4月14日追加