『時の声』 J・G・バラード

  バラードの初期短編集。例えばここなんかをみると1962年で、最初期ともいえる時期。とはいえ、この7年後にもう濃縮小説の『残虐行為展覧会』が出るのだが。ともかく初期ということでストレートなSF短編集になっている。『時間都市』を読んでいたので、正攻法ぶりには驚かなかったものの、より〈普通のSF〉っぽい感じ。

「時の声」 精神に異常をきたした生物学者が水のないプールの底一面にに奇妙な溝を彫る・・・といったいかにもバラードっぽいイメージから始まるが、後半意外に壮大なSFらしい展開になる。これを読んで、バラードの印象が変わったSFファンもいるのでは。
「音響清掃」 超音波録音の技術により仕事を失ったオペラ歌手と声を失った男の物語。音楽SFですね。ちょっとアイディアは古いかな。二人の人物像はいかにもバラードらしい。
「重荷を負いすぎた男」 仕事を勝手にやめてきた男は、家で白昼夢にふけるようになった。いわゆる奇妙な味系。まあバラードじゃなくてもいいようなもの、という意見も出そうだが、なかなかどうして。実は一番面白かったかも。
「恐怖地帯」 不安神経症のラーセンは奇妙な幻をみるようになる。これも題材はバラードらしいが、処理は奇妙な味系。
「マンホール69」 人間を眠らないようにする実験をニール博士は行うが。いやあ普通のSFだなあ(普通であることにいちいち感心するのものも変だが)
「待ち受ける場所」 辺鄙な星に15年もいた前任者を引き継ぐため、主人公はやってくる。前任の無口なタリスは秘密があった。これまた壮大な宇宙的イメージのSF。さらに光瀬龍っぽい卑小な人間への哀感ともいえるようなラスト。へえー。
「深淵」 滅亡する地球に残るわずかな人々の話。これも哀感が漂う。

こんなのも書いていたんだなあ。