文學界6月号

いわゆる文芸誌なんてほとんど買わないから、文學界を買うのは初めてだと思う。もちろん円城塔の「オブ・ザ・ベースボール」が目当て。主人公は、年に一回百人ほど人が降る町のレスキュー隊員である。レスキューするのだから、せめてグローブを持ってほしいのだが、バットを持っている。おまけにキャッチャーは地面ではなく、空の方にいる。そんなわけで、文学賞だからどんなものかなと思ったら『Self-Reference ENGINE』と全く変わらない乾いた幾何学的ユーモアに満ちたすっとぼけた世界が展開される。まあ話そのものが《バッター・イン・ザ・ライ》で町の名前がファウルズなんだから、ふざけている(島田雅彦によると「世界のなめ方において、群を抜いている」)。選評が割れた様子もよく分かる。これだけ個性があると、後に大物になった時を考えて大絶賛しておこうかとも思うが、まだ自分の中での位置は定まっておらず。煮詰まらないでいろいろ書いて欲しいのが本音。 
 
で、もう一方の受賞者谷崎由依は偶然にも最近読んだジャック・リッチーの翻訳者。あたりまえだが受賞作「舞い落ちる村」はリッチーとは似ても似つかない幻想小説円城塔と並ぶと、非常に伝統的な作風に感じられる。川上弘美氏の「わたしの小説に似ている」発言はちょっとおかしかった(確かに同感だけど)
 両作とも幻想・SF小説系の非日常的なネタで、最近の文学賞ってこんなになったのかと森をみずに木だけをみての感想。